164カンを養う(その2)

 機械技術者の養成について自動組立の世界的権威の牧野先生の著書に次の様な記述があります。併せて過去に経験した事例について紹介します。

 ~前略~ そもそも、構造設計というものは、形の決まった建物に対して柱の太さや、コンクリートの中に入れる鉄筋の数などを計算することをいう。これには、ただ単に建物自身や中味の重さだけでなく、自身や風などの影響も考えて計算しなければならない。高層建築物などになるとこの計算はかなり複雑であり、有限要素法などを用いて大型のコンピュータで解かなければならない。これには専門の知識を必要とするので、建築の仕事はデザインをする設計者と構造設計をする設計者とが分かれている。デザインの仕事は計算の結果をある程度予測して行われる。その時に必要なのは経験とカンである。「まあこんなもんだな」という感覚である。

 機械の設計も同じことで、機械の主軸の太さ、板の厚さ、締結ボルトの数などは単に強度だけから決めることはできないのである。剛性やら、振動の影響やらも考えなければならないのである。「まあこんなもんだな」といって決めた寸法が、後から計算してみたら最適だったというのが理想である。こうした経験やカンを機械設計者はもっと大事にしなければならない。

 以上、技術調査会発行「シーバスリーガル」牧野洋著より抜粋

 どうしたら機械設計技術者を養成できるか。これは、私の考えでは、動いている良い機械を見せることと、バランスのとれた良い図面を見せることの二つにつきるのではないかと思う。そうして設計のアイデアについて、絶えず討論が行われ、描かれた図面について上司やベテランによるチェックがなされなければならない。そのためには、機械設計者は集団をなしていなければならない。

 以上、技術調査会発行「裏返しのメニュー」牧野洋著より抜粋

 会社に入って間もないころ、プリント基板用の銅のプレートを搬送する設備とその前後のローダー・アンローダーを設計することになりました。初めての設計業務でモチベーションは非常に高かったと思います。早速方式をいくつか考え上司のアイデアも盛り込んで仕様化しました。ローダーは積層された銅のプレートを1枚1枚切り出し搬送機構へ送りだすシステムで昇降機構と吸着払い出し機構の組み合わせでした。搬送はエアーとローラーの組み合わせ搬送方式でした。アンローダは搬送機構からの銅版の取り込みをローラーで案内して、重力による落下積層だったと思います。

 この仕様を実際に図面に起こすための経験もカンもありませんでした。当時同じ建屋の1階に試作工場がありました。そのおかげで、デバック中の数台の設備を見たり、デバックを手伝ったりして先輩、工場の組立班のメンバーから設備について学ぶことができました。筐体用の鉄骨材の大きさ、設備を支えるフットのサイズ、水準器を乗せる場所、水準だしのやり方、位置決めピン、配線のルーティング、信号チェック等々そこには設備設計に必要な要素が凝縮されていました。

 僅かな期間でも経験らしきもの、カンらしきものが身に付き、案画(組立図)を作成することができました。しかし、部品図にばらした後の寸法公差、表面粗さ、材料の選定や処理については、ほとんど先輩が決めました。部品図の経験やカンは短期間にはできそうもないと感じました。強度計算やトルク計算は教科書通りに行う事が出来ましたが、適正な寸法公差を決めることが出来るようになるために、時間がかかったと記憶しています。

SHIMAMURA ENGINEERING OFFICE

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