163吊り下げロボット
ロボットの干渉問題と吊り下げロボットについて自動組立の世界的権威の牧野先生の著書に次の様な記述があります。併せて過去に経験した事例について紹介します。
ロボットの干渉問題というのがある。ロボットが作業するとき、ロボットの作業工具や腕の一部が何かの障害物に当たってしまう、これを避けるにはどういう経路を与えたら良いかという問題である。
この障害物は対象ワーク自身であることもあり、マガジンやシュートなど、部品供給のための装置であることもあり、ロボットの胴や、それを支える構造物であったり、二台以上のロボットが協調動作を行うときにはその相手側のロボットであったりする。作業の目的位置で衝突を起こすこともあれば、そこに至る動作の途中で衝突をおこすともある。
~中略~
たとえば、溶接しようとするときに、ロボットの二の腕がフロントカバーに当たってしまうというような問題である。ロボットが遠い点に届こうとすればするほど、ロボットのアームの形は一直線に近くなるから、途中にある障害物を避けることが難しくなる。
そこで最近では天井から吊り下げるタイプのロボットが多くなった。大きな門型のフレームを作っておき、そこにロボットをブル下げる。フレームにレールを付けてロボットを走行させることもある。
こうすれば、車は床に置かれ、窓枠は上の方にあり、ロボットはその上から吊り下げられて腕を伸ばすので、相互の干渉は少なくなる。予期しにくい衝突は起こりにくくなる。
以上、牧野先生の著書から一部を抜粋しました。
かつてプロービングシステムに垂直多関節のロボットを適用したことがあります。そのロボットは吊り下げタイプでした。対象は大型計算機のプリント基板で、数種類の導通検査を自動で行うシステムでした。大型のプリント基板を検査するため、ワークエリアが広く、ロボットを設備のトップフレームから吊り下げました。ロボットは複数のプローブを自動交換しながら、目標とするプリント基板の試験パッドへアクセスすることができました。併せてプローブについているケーブル類も吊り下げ式にしたおかげで、ティーチングなどの操作性も向上したことを記憶しています。ここでのロボットのアクセスは垂直方向です。
現在、この種のシステムはフライングプローバーとして、メーカーから提供されています。ただこのシステムは、広いワークエリアを確保しつつ、設備の設置面積を小さくするため。プリント基板は縦置きで、ロボットはその影響で横置きとなっています。ここでのロボットのアクセスは水平方向です。
まだ携帯電話が普及する前、固定電話の新規加入や入れ換えが発生すると、電話局側で配線ケーブルの接続や切断をマニュアル作業で行っていました。山奥や離れ小島の無人局の場合、本局から作業者が出向いて工事をするため、2~3日新規加入者らを待たせることになっていました。電話局の指導の下、このマニュアルでの配線作業を自動化するシステムを開発したことがあります。本局からのリモート制御でロボットが完全自動で配線します。結果、作業時間は3分となりました。全国で1,000システムほど稼働しています。
ロボットで行う場合、配線ケーブルの代わりにマトリックスボードと接続ピンを使います。マトリクスボードの分離スル―ホールに対して接続ピンをロボットが挿入抜去することで配線します。狭い局舎内にマトリックスボードを沢山敷き詰めるため、マトリックスボードを数百枚取り付けるフレームは縦置きで2列になっていました。XYZθロボットがその縦置き2列のフレームに挟まれる格好に設置され、θ軸(反転機構)を使って両フレームのマトリックスボードにアクセスします。ここでのロボットのアクセスは水平方向です。
ちなみに、ハードディスクドライブの組立の様に、ダウンフロー型のクリーンルーム内での自動組立は、発塵の原因となる機械が作業エリアの上に来ないようにロボット設置を考えます。
ロボットは、目的、環境に合わせて適正な設置が求められます。現在は、各ロボットメーカーからロボットシミュレータが提供されています。通常の据え置きを検討するだけだはなく、併せて吊り下げ、横置きを検討しベンチマークすることが大切だと思います。
0コメント