161振動と熱

 プロセス系の工場では製造品質を安定させるため、製造の各工程において温度、圧力、濃度などの管理値が決められた基準値の範囲に収まる様に、常時監視、チューニングを行っています。例えば管理項目が温度の場合、ターゲット温度が25℃に対して上限が26℃、下限が24℃であるとした場合、規定のサンプリング間隔でデータを取得して、グラフにプロットします。プロットしたデータが上限、下限の間にあれば正常です。1日データをプロットして、その最大最小の幅がバラツキ、データの平均値とターゲットとの差がオフセットとなります。

 上限下限に入っているので良とするのか、バラツキ幅を小さくするチューニングを施すか、オフセットをターゲットに近づけるようにチューニングするかでも、品質は変わってくると思います。しかし、バラツキ幅に周期性がある場合や、オフセットが時間と伴にずれていくドリフト現象がある場合は、その原因を突き止めて対策する必要があります。その根本原因の多くは設備が持つ固有の振動や熱による線膨張です。以下に経験した事例を掲載します。

<振動の事例>

 生産技術部門の担当者であったころ、プリンターの不具合を調査する機会がありました。小型レーザプリンターのサンプル画像において、何本かの筋ができてしまうといった不具合でした。当時のサンプル画像はベンツのフロントガラスであり、あたかも雨が降ったように数本の筋が、フロントガラスの上についていました。これがプリンターの品質において良くないことは言うまでもなく、早急に原因を調査して対策する必要がありました。

 レーザプリンターの原理は、画像情報を乗せたレーザー光をポリゴンミラーで感光ドラムに照射し、感光したところだけトナーが付着して、さらに紙に転写させるといったものです。当時の画像情報は600dpi(dot per inch)程度であったと思います。前述の雨が降ったような筋ができるのは、このdot間隔が一定でないと生じる現象です。その真の原因を突き止めるためのツールがフーリエ変換を応用した周波数分析です。

 プリンターの機構は感光ドラム、転写ドラム、定着ローラ、ピックローラといった回転体を数個のパルスモータで駆動させますが、駆動力を伝達させるために、多くのギア列を構成する必要があります。プリントは一定の速度で行われるので、ギアを含めた回転体には周期性が伴います。(周期的特性)

 前記の周波数特性を持った様々な波が合成波となって、先ほどの一定ではないdot間隔の画像を作り出します。逆に、この画像結果を使ってフーリエ変換することで、どの周期の部品が原因であるかがわかります。このdot間隔を読み取る装置は世の中にあり、同時に合成波を検出しフーリエ変換します。その結果、伝達系のあるギアが原因であることを突き止めることができました。そのギア精度を高めることで、解決できたと記憶しています。

<熱の事例>

 入社当初ロボットアームの設計をしていました。垂直多関節ロボット(仮称:M6)でモーター、エンコーダー、ハーモニックドライブを1つのモジュールとして、回転軸と揺動軸を組み合わせて6自由度をもっていました。最大の特徴は、当時の垂直多関節ロボットとしては高精度であることでした。(繰り返し精度:±0.03㎜) 試作機ができると早速評価です。

 計測は高さ700㎜、縦横1,000×1,000㎜の角パイプの筐体の上に、厚さ20㎜、縦横1,000×1,000㎜のアルミ製の天板の4隅をねじで締結したテーブルに、被測定物のロボットとPSDというLEDの光を使ったポジションセンサーを取り付けてロボットの繰り返し精度を測定しました。測定は21:00~9:00で無人で行いました。

 繰り返し精度の結果は±0.03㎜を大きく外れる数値となっていました。繰り返し精度は、ロボット単体の一定方向からの位置決めのばらつきを示しますが、時間と伴に位置がずれてしまういわゆるドリフト現象が発生していました。厄介なことに原因はすぐにはわかりませんでした。

 結局、原因は測定環境の変化(室温の変化)にありました。ロボットとPSDを取り付けていたテーブルが、ねじで締結されているアルミ天板と鉄パイプの筐体の熱膨張の違いで歪んだためです (ポテトチップスのようなアンジュレーション)。ねじを全部緩めた状態で測定し、ドリフト問題は解決しました。

 本件はロボットの問題ではなく、計測系の問題でした。

SHIMAMURA ENGINEERING OFFICE

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