132ろくろ旋盤と加工法

 先日、軽井沢へ行く機会があり、地元のビール工場や美術館を見学しました。その中で印象に残っているが、エルツおもちゃ博物館でした。「ドイツ・エルツ地方で300年以上の歴史を誇る木工のおもちゃをはじめ、ヨーロッパのユニークな知育玩具を集めた博物館です。マイスター(高度な技術を伝承する職人)たちが手作りしたくるみ割り人形やパイプ人形は、なんとも表情豊か。その土地の歴史と文化が息づいたおもちゃの数々が、大人の知的好奇心をくすぐります」とパンフレットは紹介しています。

 その中でも、ろくろ旋盤で作った木工製の動物・人の小さな人形で、その加工方法には感心させられました。日本でも昔からこけしの製作にろくろ旋盤が使われています。材料となる木材を回転させ、そこへノミの様な刃物を当てて削ります。出来上がる作品はこけしや皿といった回転体となります。そのろくろ旋盤を使ってどうやって4本足の馬、首の長いキリンや手足首がある人の人形を作るのか、非常に興味を惹かれました。以下がそのものづくりの工程です。

①直径300㎜、長さ50㎜程度の円板状の木材を、ろくろ旋盤に取り付け回転させます。

②回転している木材に刃物を当ててドーナッツ状に加工します。途中1回材料を反転し仕上げます。

③ドーナッツ状に仕上がった木材を旋盤から取り外します。

④このドーナッツ状に仕上がった木材を、円の中心を通るように半分に切断すると、2つの断面が現れます。2つとも直径が40㎜程度の円形です。同じように、100等分すれば厚さ約9.5㎜の小さな円板が100個取れます。

 以上は小さな円板の例です。断面が馬、キリンや人になるように回転している材料をノミで削ることで小さな人形ができる。といった仕掛けです。金太郎飴がドーナッツ状になったと表現すると理解しやすいと思います。素晴らしいアイデア、加工法であってものづくりの楽しさを教えてもらったと思います。(考えてみると、ヨーロッパはケーキにしてもピザにしてもチーズにしても、円形にものを作りそれを等分して提供するスタイルが多く見受けられます)

 日本の町工場によくある旋盤による板金のヘラ絞りも素晴らしいアイデアの加工法であると思います。ヘラ絞りは平面状あるいは円筒状の板金を回転させながら、ヘラと呼ばれる棒を押し当てて少しずつ変形させていく加工法です。昔、ロボット開発していた頃、ロボットの肘に当たる部分のカバーを設計しました。半球状のカバーで材料はアルミ板金を指定して試作工場へ出図しました(自分ではどのように加工するのかわからないままでした)。ヘラ絞りの加工法で見事図面通りカバーを製作してもらったことを覚えています。

 数年前、ものづくり工房の立ち上げの際、旭川機械工業㈱のターニングマシンを導入しました。オート旋盤の1種で3Dデータをインプットすると回転体だけでなく、キューブ形状ほか複雑な形状の作品を作ることが出来る機械です。ワークとなる角材を4つ爪チャックで把持し回転させます。刃物は丸ノコとドリルが装備されており、3Dデータの情報に合わせ、ワークの回転速度を変えながら、外形を丸ノコ、内形をドリルで加工していきます。今まで見てきた加工機の中で最もアイデアに富んだ工作機の1つだと思います。

 IOT、AIが進む世の中にあって、ろくろ旋盤などのベーシックな工作機を使って、素晴らしいアイデアに基づく加工法を生み出す土壌や文化を、大切に育てることも忘れてはならないことだと思います。

SHIMAMURA ENGINEERING OFFICE

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