130メンタルヘルスケアとAI
「工場で働く人のメンタルヘルスケア対策」について横浜労災病院の山本 春義氏が技術情報協会出版の書籍の中に記載しています。ここでその1部を取り上げ、自らの経験と見解を記載したいと思います。
<記事の抜粋>
職業生活におけるストレス:ストレス社会といわれる現代、職場の人間関係、仕事の質や量、会社の将来性や仕事への適正の問題などが、労働者の大きなストレスになっている。約6割の労働者が自分の仕事や職業生活に関して、強い不安や悩み、ストレスを抱えており、精神障害による労災の請求権と支給決定件数も年々増加傾向にある。また、労働者の自殺者数は年間6,000人を超えている。
こうした背景から、労働者の健康保持について、従来のメンタルヘルス不調者の早期発見・早期治療や復職支援だけでなく、全労働者を対象とした予防的かつ健康支援的なメンタルヘルスケア対策の実施が求められている。近年、法律化・制度化された「ストレスチェック」や「働き方改革」もその一環で、組織の健康管理体制を充実させるとともに、労働生産性を向上させるものとして機能することを目指している。
予防:メンタルヘルスケア対策を講じる上では、予防的かつ健康支援的視点が欠かせない。病気にならないよう予防を主眼とした「予防医学」の立場から、予防には、病気の未然防止を目的とした「一次予防」、早期発見と早期対応を目的とした「二次予防」、職場復帰支援(機能回復と再発予防)を目的とした「三次予防」がある。
組織が対策を実施し、労働者の健康が保持・増進すれば、医療費削減だけでなく、労働力の安定、パフォーマンス発揮による生産性向上につながる。合わせて職場の雰囲気もよくなり、労働者の生きがいや働きがいという面にもよい作用が波及することが期待される。
<経験と見解>
前職において兼務で職場支援スタッフを3年ほど経験しました。職場支援スタッフとはメンタル予備群の従業員、メンタルになってしまった従業員のケアをします。抜粋記事によるところの「二次予防」「三次予防」にあたります。メンタル的に問題がありそうだとの相談を受けたり、突発的な欠勤が度重なった人の相談にのったりします。そのあとの産業医面談において、適応障害、うつなどと診断されることが稀でなく、長期の自宅療養となることがあります。
職場支援スタッフは長期療養の人と月1回程度面談しますが、会社とは別の場所で行います。会社に来ると腹痛、動悸、多汗などの症状が出てしまうためです。1年ほどの療養期間中、最後の3か月間はメンタルクリニックでリハビリを受けます。その後、職場復帰訓練を受けてもらい、職場復帰となります。厄介なのがメンタルの原因がパワハラの場合、元上司の職場への復帰を避けますので、復帰先の検討も必要となります。以上の一連の流れは職場支援スタッフだけではなく、人事、保健師、産業医がチームを組んで対象者をサポートします。
メンタルで自宅療養になると患者、会社の大きな負担となるため、人事主導の下、AI(ディープラーニング)による早期発見のシステムの開発が始まりました。このシステムは過去の出退勤のデータを基に3か月先にメンタルになっているか否を予測するシステムです。その正確度、精度向上のため幾度となくチューニングを行い、正確度、精度といった点では使用可能なレベルまできていました。この時点で、職場支援スタッフへシステムが使えるか評価してほしいとの依頼がきました。
正確度、精度が良くても最大の問題は、対象者にどの様に伝え、どのように説明するかです。「あなたは3か月後にメンタルになりますとAIが診断しました」では納得されません。ディープラーニングの最大の欠点である、どの様な理由でその判断がなされたのかがわからなければ対策をとることも出来ず、面談する職場支援スタッフも困ります。ただ何千人といる従業員の中で注視する人を絞ることはできます。しかし、従来出退勤の状況を見て注視する人を絞るのとなにが違うのかです。当時、運用としてはまだまだといった評価結果だったと思います。
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