122 IoT・AIの利活用の目的

 IoT・AIの利活用の目的について、技術情報協会の書籍の中の㈱ニッセイ基礎研究所の百嶋 徹氏の「製造業などにおけるAI・IoTの利活用の在り方」という記事に掲載されています。ここでその1部を取り上げ、自らの経験と見解を記載したいと思います。

<記事の抜粋>

 AI・IoTの利活用目的の明確化:キオクシアの四日市工場ではフラッシュメモリの小型・大容量・低価格という市場の要求に応えるため、統合生産や自動生産システムの確立など徹底した生産の合理化に早くから取り組んできたが、激しさを増すグローバル競争に勝ち残っていくためには、歩留まり・製品品質を高め、信頼性・安定性を最大限に向上させた生産体制を築かなければならず、そこでビッグデータの見える化に着手した。さらにAIや機械学習を用いるフェーズに進んだが、このような最先端のデジタル技術活用は、それ自体が目的ではなく、市場ニーズやグローバル競争への対応が明確な目的となっている。

 三井化学では、国内生産拠点の目指す姿として、グローバル競合下でも勝つことが出来る最高レベルの競争力の獲得、運転技術・設備技術の継続的進化、人材・技術を発信するマザー工場への進化を掲げた上で、この目指す姿に向けてICT活用で出来ることとして、より複雑・高度な運転にむけた運転支援システムの構築、予知保全に向けた設備異常・設備劣化の推定、運転ノウハウなど暗黙知の形式知化などを抽出した。生産拠点の在るべき姿(目的)からICTの活用法(目的を達成するための手段)を考える「バックキャスティング」の思考法が取り入れられており、このような考えの下には、AI・IoT利活用が明確化するため、その実装自体が目的化することはない。

 両社の事例から学ぶべき点は、AI・IoT利活用の明確な目的を設定することが重要であり、その実装自体は目的を達成するための手段であって決して目的化してはならない、ということだ。

<経験と見解>

 データの利活用に関して、「チップ実装ラインのチョコ停改善」「プリント基板製造での突発不良防止」のテーマで取り組んだことがあります。

 チップ実装ラインのチョコ停改善:対象の工場には、チップ実装ラインが9本ほど導入されており、ライン1日平均数十分の停止があり工場全体では、1日1ラインが稼働していない計算になっていました。現場としてチョコ停改善は大きな課題になっており、以前より改善に向けた取り組みを継続していました。幸い設備の膨大なログデータが管理されていましたので、当時バズワードであった「ビッグデータ」を活用して課題に挑戦しました。

 分析の結果、あるチップ部品の形状が当初想定していたものと違っていたのがチョコ停の原因の一つでした。部品形状の違いによりロボットのエンドエフェクタ(吸着コレット)で安定して部品を把持することができず、チョコ停が発生していたのです。一見、ビッグデータで分析したことで発見された事象のように見えますが、実は部品の形状などは工場側で事前に調査する必要があり、それを行っていなかったために明らかになった結果です。

 プリント基板製造での突発不良防止:対象の工場では、日々の品質管理はちゃんと行われているにもかかわらず、年に1回程度、突発性の品質問題が発生するとのことでした。原因はわからず、ラインを停止し、工程の液槽をすべて入れ換えるなど、膨大な費用と時間をかけているのでデータを使って何とかしたいとの依頼がありました。そこには明確なニーズがあり、当時所属していた生産技術部門で、データ活用の取り組みが行われていたので、プロジェクトを作り、課題解決(AIによる不良予兆検知)に取り組みました。

 取り組みを進める中で、設備データが膨大にあるにも関わらず、目的達成に必要とされるデータが少ない、またはデータが複数散在していてどのデータが正しいのかが分からないなどの問題が出てきました。結局、品質の良いデータを収集できないまま分析を行ったため、十分な不良予兆検知の精度を得ることはできませんでした。

 抜粋記事で言及しているIoT・AI利活用の目的の明確化の次に必要なのは、その目的に向けて事前に課題をすべて抽出し、IoT・AIがないとできない課題、なくてもできる課題を明確にして優先順位をつけて取り組むことだと思います。

SHIMAMURA ENGINEERING OFFICE

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