121設備の故障診断
設備の故障診断について、技術情報協会の書籍にパナソニック㈱の「既存工場への後付けIoT・AI導入の方法」という記事が掲載されています。ここでその1部を取り上げ、自らの経験と見解を記載したいと思います。
<記事の抜粋>
はじめに:製造装置の生産性向上を推し進めるには、製造装置全体の状態監視が不可欠であり、加工不良を防止しつつ、最小コストで保全を行う状態基準保全(CBM: Condition Based Maintenance)が有効である。製造装置の中でも主流となるモータ搭載設備の稼働部・機械要素部品(ボールネジ、ギア、ベルト等)のCBMを実現する手段として振動、電流診断が一般的であるが、周囲振動(他軸等)や稼働情チアの変動(回転数、トルク等)の外乱が大きい場合に正しい判定が困難であること、劣化モード毎の演繹的な判定アルゴリズムの構築に工数と費用が膨大にかかることが課題である。
高調波センシング:機械要素部品の間も劣化の一種である凝着摩耗は油膜切れにより、摺動面が粗くなり、微振動が発生する。その摺動面の振動がモータ回転方向の角速度変化となり、モータ電流変化が発生する。つまり、ギア振動がモータ回転方向に伝搬してモータ電流変化が生じるため、モータ電流を基にした高調波センシングでギア摩耗劣化に共通した劣化診断が可能となる。これは凝着摩耗だけでなく、アブレシブ摩耗や腐食摩耗、疲労摩耗であっても、摺動面が粗くなり、微振動が生じる原理は同じである。機械要素はギアのみならず、ボールネジ、ベアリングにおいても対象となる。
汎用的なセンサである電流センサはモータトルク(負荷)の表れる低周波帯域に高感度である。一方、高調波センサは同じモータ電流から、劣化成分の表れる高調波帯域に調整されたモータ磁界センサである。また、この高調波センサを用いることで劣化を協調する劣化強調フィルタを構築し、そのフィルタを介した情報から劣化度算出が可能である。~後略~
<経験と見解>
過去にモータの電流をセンシングして、その状態をフィードバックさせた設備の開発を経験したことがあります。ハードディスクドライブのカバーの多軸同時ネジ締め機です。7本のネジを同時に同じトルクで締め上げることで、品質の安定化と時間の短縮を実現しました。抜粋記事の場合はモータ電流の高調波成分を使った摩耗検出であり、本来アクチュエータであるモータをセンサとして使った良い例だと思います。
この仕掛けを使うと誰がうれしいかといった点を考えてみます。設備を自社で開発した場合は摩耗してきた部品を自社の製造技術、生産技術部門が保守しますが、汎用のロボットを購入して設備を作り上げた場合、機械要素の交換はメーカーに依頼することになります。すなわち、この仕掛けはあらかじめメーカー側でロボットの機能として搭載することになります。メーカーは顧客先に導入したロボットのこの情報を定期的、またはオンラインで常時収集して、機械要素の劣化状況を分析し、必要に応じて顧客にフィードバックします。その結果、劣化が進む前に部品交換をする。といったサービスが実現します。
前職場のグループ会社の1つで焼結部品を製造している工場へ訪問した時、工程内のロボットが突然稼働しなくなりラインを停止せざるを得ないことが幾度かあったと聞きました。その原因に1つがやはり機械部品の劣化によるものだそうです。
IoT、AIを使った上記仕掛けは、工場側、設備メーカーの両者がうれしいシステムへと展開できるものだと思います。
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