028イナーシャの変動は3倍まで

 当時、産業用ロボットを開発するにあたり、少なくとも3人のエンジニアが必要でした。ロボットの機構部を開発するメカエンジニア、そのロボットを制御するエレキエンジニア、ユーザーインターフェースを担当するソフトエンジニアです。中でもメカエンジニアとエレキエンジニアとの責任範囲の明確化が重要となります。

 メカエンジニアは市場とトレンドや他社とのベンチマーク結果から、ロボットのアームの長さ、位置決め精度、可搬重量、設置面積、ユーザー用の配線配管、本体重量などの仕様を取りまとめ、機構、構造設計し、図面化します。

 一般的に、精度、速度、可搬重量が基本要件となります。それに合わせて、まずモーター、エンコーダー、減速機を選択します。モーター選定の決め手はトルクです。必要な加速が得られるか、連続運転時のトルクは十分かを検討します。(瞬時、定格、実行の3つのトルクを検討して最適なモーターを選定します) 通常のモーターの回転速度では早すぎて、ロボットの関節の回転速度と合わないため、適切な減速機を選択します。また、仕様の精度を実現するため、必要とされる分解能のエンコーダーを選択します。

 ロボットはメカだけでは動かすことはできません。この機構にパワーを与えて、動きを制御する技術が必要です。それを実行するのがエレキエンジニアです。そしてメカエンジニアとエレキエンジニアの責任分担の指標が動力学のイナーシャ(静力学の質量に当たるもの)です。そのイナーシャの変動の割合が3倍以内であれば、制御で対応するというものです。すなわち、振動も発振もなくスムースにロボットが動くように制御ができるという目標数値がある時期から明確に設定されました。

 垂直多関節ロボットは、構造上、姿勢が大きく変わります。それに伴いイナーシャが変わります。出力軸側のイナーシャは減速比の2乗分の1となることを考慮したとしても、モーター直結分のイナーシャとバランスを取りながら、部品の軽量化を進めることは、かなり大変なものでした。(変動を3倍以内にするため)

 エレキエンジニアから見ても、サーボ定数をイナーシャ変動の中心に設定したり、エンコーダーの信号を16倍にしてきめ細やかな制御をしたり、大変だったと思います。(3倍の変動があっても、制御するため)

 さらにソフトエンジニアが円弧補間、スプラインなどの動きをロボットに取り入れて、ユーザーの使い勝手を向上させ、短期間にも関わらす、トータルの機能、性能改善がされた素晴らしい時期であったと、心に残っています。だからと言って、導入してくれるお客様が増えたわけではありませんでした。別問題のようでした。

SHIMAMURA ENGINEERING OFFICE

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