027 データ活用の取り組み(その1)

 あるプロセス系の工場へ、異常予兆検知のAIシステムを導入するために、現地調査からフィージビリティースタディーを1年かけてやったことがあります。異常予兆を検出するためには、まず十分な製造データ、プロセスの条件データと、その結果出来上がった製品の品質レベルがどの程度になるかの結果のデータが必要になります。過去に遡ってそれぞれのデータが、時系列または製造ロットと紐ついていることが必要となります。その紐ついたデータをAIシステムで学習することで、予測モデルを作り、その予測モデルに直近の製造データをインプットすることで、実際の結果が出る前に、品質のレベルを予測します。(異常の予兆を検出する)

 従来も、品質レベルが芳しくない場合、そこから原因を調査、分析し対策を立てていましたが、予測結果に基づいて、この改善のPDCAを回せば、不良が出る前に、改善することができるので歩留まりが向上するといったシナリオが成り立ちます。

 特にプロセス系の工場の場合、製造リードタイムが数週間になることも、まれではありません。条件設定やチューニングを行っても、それが良かったのか否かをすぐに知ることができないので、AIの導入は有効であると考えられています。AIシステムは専門メーカー各社から提供されているので、購入は容易です。しかし、AIシステムを導入する前に、やっておかないといけないことが山ほどあります。

 最も重要なのが、データがあるのか? です。プロセス系の工場の場合、製造そのものは大型の自動化設備で行われています。オペレータはその状態を常に監視して、規定の条件の中に納まっていなければ、設備をチューニングします。対象の多くは、温度、濃度、圧力、ラインスピード、時間などがあります。このデータがどのような方法で、どのような頻度で採られ、どこに格納されているのかが、明確になっていて、初めてデータがあると言えます。またデータがあっても、AIシステムで分析するのに十分な量、質のデータであるのかも、重要です。

 当初、工場にヒアリングした段階では、品質に不良が出た場合のみ、原因として考えられる工程の設備データを、USBでかき集めて分析し、製造条件にマッチしていなかった工程、期間を確認する程度でした。さらに心配な場合は、製造ラインに定期的にダミーのワークを流して、良否判定するなどに取り組んでいました。

 1年かけて、必要なデータを選択し、関係する工程の設備からデータを収集するネットワークと格納するストレージ、サーバーを準備しました。さらにAIシステムにインプットする際のフォーマットの共通化や、データの運用体制も整備しました。まさに、これからAIシステムを導入して、異常予兆検知に取り組むといったスタートラインに、ようやく着きました

 「AIシステムを入れるのに、1年も準備しなければいけないと思うなかれ。」通常の品質改善にも必要なものばかりです。AIシステムを導入しようと決めたから、1年という短期間で品質改善のインフラと体制が整備されたのです。

 今後のテーマは、予測がどのくらい当たるかであり、その予測精度を上げるための活動へとすでに展開が始まりました。

SHIMAMURA ENGINEERING OFFICE

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