520生産技術部門の取り組み

 大手メーカー企業には、2つの生産技術部門があります。1つは各事業部が持っているグループ工場の生産技術部門または製造技術部門と各事業部、グループ工場を統括する立場のコーポ―レート系(本社機能)の生産技術部門があります。コーポレート系の生産技術部門には2つの役割があります。1つはものづくりの標準化、規格やTPS活動の普及、自動化・ICT・IoT・AIの推進など全社共通的な取り組みの推進と、もう1つは各事業部が開発する新製品に合わせた加工法の開発、さらに将来を見据えた先端加工技術の開発です。以下はF社コーポレート系の生産技術部門の技術開発の取り組み例とその後についてです。(特許、学会などで公開済みの内容のみ)

 多関節ロボットの開発:80年代まだ各メーカーの生産技術部門が独自でロボットを開発していた時代で、高精度位置決め技術、フィードバック制御技術などのロボットの基本機能の技術開発に取り組んでいました。そこで当時、山梨大学の牧野先生が中心となってSCARAロボットの研究会が立ち上がりました。多くのメーカーがこの研究会に参画することでSCARAロボットの基礎技術が出来上がりました。そして、これを事業とするメーカーが一気に増え現在のロボット産業へとつながりました。F社も研究会の会員として活動を強化していましたが事業化は見送られました。しかし、その技術のノウハウは自社の自動化設備開発へと引き継がれました。

 レーザー加工技術:薄い金属板にレーザーを照射して曲げ加工をするユニークな技術開発も行われていました。ハードディスクの媒体に情報を読み書きするヘッドはジンバルと呼ばれる極薄の板バネに支えられています。この板バネは微妙な角度の曲げ加工が要求されますが、たまに規格を外れてしまうことがあります。そこで、このレーザー加工技術を使って規格値に入る様に修正する設備が開発されました。F社のハードディスク事業撤退に伴い技術開発も中断となりました。

 ナノメータテクノロジの開発:ナノメータテクノロジの一つであるナノインプリントの技術開発も行われていました。1つはハードディスクの媒体(円板)の溝の形成、1つはバイオミメティクスへの適用でした。媒体の溝の形成は先と同様、事業撤退に伴い技術開発が中断となりました。バイオミメティクスはご存じの通り生物の微細な形状を真似て、機能化するものです。例えば、サトイモの葉の表面形状が真似できれば、撥水性に富んだ物体の表面加工が可能となります。濡れ性富んだに生物の表面形状が真似できれば撥水性と逆の機能の表面加工が可能となります。一連のこの技術をサーフェースコントロール技術として、将来の応用展開が期待されていましたが、社内に展開先が見つからないまま、技術開発の継続が中断となってしまいました。

 そのほか、マイクロインジェクション技術、超音接合技術などの開発に取り組んできましたが事業環境の変化によりその継続を断念せざるを得ませんでした。ただ、技術者にはそのノウハウはインプットされています。その技術を必要としている職場への転籍、転職がスムースに行われる仕組みを作る必要があると思います。これもコーポレート系の生産技術部門の大切な取り組みの一つだと思います。

SHIMAMURA ENGINEERING OFFICE

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