519運動制御とカム曲線

 水平多関節ロボットのSCARAの産みの親で、自動組立の世界的権威の牧野先生の著書に運動制御とカム曲線について次の様な記述があります。

 ロボットアームの運動制御:SCARAロボットを開発したとき、アームの動かし方をどうすべきかについて考えた。アームの長さは必要な作業域によって決まってくる。これは短いとは言えない。振り回しのストロークは対象ワークによって決まってくる。これを短くすると言っても限界がある。アームの慣性は材質や構造を考えて、ある程度は減らせる。しかし、ワーク自体が重いのは避けようがない。アームを支えている根元のコンプライアンス(柔らかさ)はむしろ大きい。つまり、長いアームの先に重い物体をつけて、これを柔らかいばねで支えて振り回そうというのである。こういう、固有振動数の低い条件でアームを振り回して、オーバーシュート(行き過ぎ)も起こさず、残留振動も生じさせないように、ピタッと止めるにはどうしたらよいか。

 カム曲線コントロール:これはカム曲線を使うに限る。良いカム曲線を採用するに限る。大体、カム屋というのは、普段から、そうした動かし方のことばかり考えているのである。なるべくふんわりと、なるべくゆっくりと、なるべく無理のないように、しかしなるべく短時間に、物体を動かすにはどのような動かし方をすればよいのか。そんなことばかり考えているのである。そうして開発されたカム曲線をロボットアームのサーボ系の入力運動特性として採用するならば、きっと静かな位置決めができ、したがって運動の高速化が達成できるであろう。  ~以下略~

 以上抜粋でした。自分自身も入社後数年間ロボットアームの開発をしていました。ロボット制御の担当は気の利いたエンジニアで、アームの加速度をパラメータにしていたので、アーム動作に関して微妙な設定が当時からできていました。開発したロボットアーム機構を評価する際にも、加速度をパラメータにして繰り返し位置決め精度を何度か測定しました。動作時間を短縮するため加速度を大きくするとロボットアーム先端の残留振動が大きくなり、繰り返し位置決め精度が低下します。結局、加速度を抑え、残留振動なく止める方が、時間的にも精度的にもいい場合がありました。

 実は、ロボットアームのほとんどが、セミクローズド制御であるため、ロボットアーム先端の残留振動まではコントロールができませんでした。セミクローズド制御では、減速機以降のロボット先端の動きをセンシングしているわけではなく、サーボモータの回転をセンシングしてフィードバックしているだけでした。しばらくして、減速機を必要としないダイレクトモータを使ったロボットアームを発表されましたが、現在でもセミクローズド制御が主流だと思います。

 さて重要であるのが、動的なものを制御する際に、急激な変化を伴うことなく、スムーズにつなげる必要があるといった点です。プロセス系においても、急に温度が上がったり、濃度が変わったり、電流値が変わったりする場合、一定値になるまで、オーバーシュート、残留振動が発生すると思います。

 以前、通常では1日数回しか測定しないメッキ槽の温度を、数分間隔で24時間測定したことがあります。その結果メッキ槽の温度調節機能のスイッティングの様子を温度変化で観測する事が出来ました。さらに1日1回の添加剤の投入では温度が数度上昇する事も観測されました。いずれも不連続であり、温度が1℃変われば、メッキ生成速度が数倍変化するプロセスにおいてはリスクの高い現象だと思います。

 カム屋と同様「なるべくふんわりと、なるべくゆっくりと、なるべく無理のないように、しかしなるべく短時間に」を考えることが重要なのだと思います。

SHIMAMURA ENGINEERING OFFICE

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