518電気炉の容量 Phot by Mika-san

 自動組立の世界的権威の牧野先生の著書に電気炉の容量といったタイトルで次の様な記述があります。併せて過去に経験した事例について紹介します。

 卒業生が研究室に遊びに来た。聞いてみると電気炉の設計をしているのだと言う。「我社の電気炉は小型・コンパクトにできていまして電力を食わないのでとても評判が良いのです。制御性にすぐれています。」「制御性というと?」「温度のコントロールのしやすさです。少ない電力で大きな温度勾配を与えられるのです。」「でも一つ問題がありましたて。工場に据え付けますね。夏など窓を開けたりすると風が吹きこんでくる。そうすると温度がすっと下がるのです。」

 「それは君、電気炉の直径を大きくすればいいんじゃないの。」「え、先生、どうしてそんなことが分かるんですか。(電気炉の設計もしたこともないくせに。)」「そりゃあそうさ。電気炉の径を大きくして壁を厚くする。これは回転体で言えば慣性モーメントを大きくするのと同じことで、電気炉の温度を一定に保つことには効果がある。窓をあけたぐらいでは響かないようになる。その代わり、温度の上げ下げはやりにくくなるから、大きな電力を与えないと急速加熱・急速冷却はできない。」

 「そうなんです。ところがうちは消費電力が小さいことを売り物にしているものですからそれができない。そこで困っているわけです。」「そこの所は設計のポリシーの問題で何とも言えないのだけれども自縄自縛のような気がするな。両方のタイプを出せばいいじゃないの。省電力急加速型と、大電力高安定型と。そうしてお客さんに用途に応じて選ぶようにしてもらえばいい。そうすりゃ二倍売れるというものさ。」以上、牧野先生の著書からの抜粋です。

 学生時代、自動車部に所属していました。自動車を安定して走行させるためには、エンジンが安定して回転する必要があります。エンジンを安定させるために、フライホイールといった慣性体がエンジンの回転軸に取り付いています。エンジン自身に少々の出力変動が生じても安定して回転し、走行が安定します。

 一方、自動車のレースでは頻繁にギアチェンジし回転数を変えます。短時間に回転数を変更するためには、フライホイールの慣性を小さくする必要があります。したがって、競技用の自動車のフライホイールは軽量化されています。当然、エンジンは安定に回転することができないので、ドライバーは常にアクセルを吹かし調整します。当時、軽量フライホイールを自車に取り付けたかったのですが、学生にとっては高嶺の花でした。

 大型旅客機とジェット戦闘機も同じことが言えると思います。安定飛行が求められるのであれば大きくして慣性を増やし、急旋回が必要な場合は慣性を減らす必要があります。

 プロセス工場の場合どうでしょうか。最近、多品種少量の要求が強まる中、従来の大量生産用に作ったラインを使って、パラメータを頻繁に変えて品質問題が多くなってしまったといった事は無いでしょうか。大量生産用と多品種少量用の2つのラインが必要となるのではないでしょうか。牧野先生も「両方のタイプを出せばいいじゃないの。省電力急加速型と、大電力高安定型と。そうしてお客さんに用途に応じて選ぶようにしてもらえばいい。そうすりゃ二倍売れるというものさ。」と言っています。

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