348バランス測定修正設備の開発
機械設計への依頼の中で、高精度化を求められることがよくあります。高精度な位置決め機構、高精度な計測機構といったものです。特に計測の場合、計測対象物に求められる有効桁数の少なくとも1/10の精度が必要となります。計測対象は、寸法、重量、温度、圧力など様々です。
ハードディスクの組立の中に、回転する媒体のバランスを測定して、アンバランス量を修正する工程があります。媒体を規定の回転数まで上げて、アンバランスの量とアンバランスの位置(位相)を計測します。身近で言えば、自動車のタイヤのバランスを測定する装置と同じで、計測結果に基づいて鉛のカウンターウェイトを貼り付けます。
<測定>
バランスを計測する計測器は専門のメーカー各社から購入できましたが、その当時、回転体を計測器に取り付けるステージはユーザー側で設計製作する必要がありました。バランスを測定するためには、回転体を完全に固定するわけではなく、ある方向、例えばX方向にフリーになるように取り付ける必要がありました。したがって構造は、4つの板バネでステージを吊り、そのステージに回転体を取り付けました。回転時のX方向の揺れ量を測定することで計測できます。
厄介なのは、この4枚の板バネの取り付け位置が少しでも変わると、測定結果が大きく変わったり、ばらつきが大きくなったりすることです。当初はこの取り付け位置の誤差を最小にするように、部品公差、組立公差を厳しくしていきましたが、一向に良くなりませんでした。ある時測定値が安定した時があったので、逆にその時の取り付け寸法、部品寸法を計測して、部品はその部品寸法に合わせるため同時加工(材料を重ね合わせた状態で加工すること)をし、組立はその寸法に合う組立治具を作りました。結果、以降のバランスステージは何台作っても、安定した計測ができるようになりました。
公差をコントロールするか、同時加工や組立治具を使うか、ケースケースで使い分けていく必要があると思います。
<修正>
媒体が組み込まれたワークが前工程から流れてくると、自動的に測定ステージにセットされて、既定の1/2のスピードで回転させます。この数秒間でアンバランス量と位置を計測します。次にオペレータが計測された通りに、媒体を固定しているハブに貼り付けます。カウンターウェイトは片面に両面テープが施されており、仮固定されます。次にカウンターウェイトとハブの境にUV接着を塗布し次のUV照射工程へ搬送されます。この工程では自動的に規定時間UVを照射して接着剤を固め、次の工程で規定の回転スピードで再度バランスを計測して、OK/NGを自動判断します。
運用に入って数日後、固定されているはずのカウンターウェイトが外れてしまうといった障害が発生しました。原因はUV照射ランプとカウンタバランスの位置がわずかにずれていたことにありました。十分な照射がされず接着剤が固まりきれなかったと思います。障害が発生する前までは、規定の回転スピードでも偶然外れなかっただけの様でした。
ユーザー先では、長時間使用するため、同じくカウンターウェイトが外れてしまう可能性があったので、それまでに同じ工法で作ったハードディスクを全部回収しました。幸い顧客先へ提供する前の製造工程内の回収で済みましたが、かなりの損害になったと思います。以降、UV照射工程の後にオペレータが接着剤の固まり具合を、爪楊枝でつついて確認するようになりました。自動にすることで、作業者が増えてしまいました。
いかに精度よく計測し、修正するかといった技術開発の前に、いかに高い信頼性でカウンターウェイトを固定するかといった技術開発が求められていたのです。1年後には、カウンターウェイトをUV接着剤で固定する方式から、C型リンクのウェイトをパッチン止めする方式に変更されました。
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