347ものづくりの基礎(モジュラーデザイン)
日経ものづくり2021/4号に「ものづくりの基礎が危ない」といったタイトルで次のような記事が掲載されています。
ものづくりに関する技術者の基礎的スキルや知識の低下は、危機的なレベルになっている。そう考える技術者が多いことが日経ものづくりの実施したアンケートで明らかになった。~中略~ 世界市場での厳しい競争を勝ち抜くため、ほぼ全ての製造業が低コスト化や開発期間の短縮といった効率化に取り組んできた。価値を生み出さないムダな作業を、標準化や共通化、デジタル技術の活用によって極力減らしていこうという取り組みである。しかし、こうした取り組みは技術者の基礎力低下を招く懸念がある。
以上 日経ものづくり2021/4号抜粋
さらに記事は次の10のキーワードを取り上げ、解説しています。「ポンチ絵」「デザインレビュー」「モジュラーデザイン」「生産管理システム」「受注生産と計画生産」「安全在庫」「パレート図」「強度と剛性」「焼き入れ・焼き戻し」「工程能力指数」。ここでは、「モジュラーデザイン」にまつわる過去の経験について記述します。ちなみに、モジュラーデザインとは、前もって互換性の高い部品を設計しておき、それらを組み合わせて新製品を設計すること。標準化を拡張した概念。です。
東京の都心の一等地。1,200㎡の敷地面積に、ものづくり工房を立ち上げるプロジェクトを引き受けたことがあります。当時、米国では3Dプリンタ、レーザプリンタ、CNCといったデジタルデータを用いて、素人でも簡単に造形、加工ができるツールと作業スペースを提供する会員制のものづくり工房が各地で立ち上がっていました。対象者はDIYに興味がある人や、メーカーズといった人達でした。泉のように湧いてくるアイデアを、簡単に形にできるツールや場所が提供されるものづくり工房は、大きなブームになっていました。このプロジェクトでは、米国の有名なものづくり工房のフランチャイズを日本で最初に立ち上げるものでした。
そのフランチャイズ仕様の中に、「受付のカウンターテーブルは、新スタッフを含めた立ち上げメンバー自らで製作すること」といった宿題がありました。米国で立ち上がっている6つのフランチャイズ店は既にブランドカラーを使って、各店舗とも類似のカウンターテーブルを製作していました。当初、米国から図面をもらって、日本様にアレンジしようと考えていましたが、そもそも図面はないとのことでした。どうやら、DIYやメーカーズでは図面化にはこだわらず、アイデアを次々に形に変えていくやり方なので、図面はないそうです。(米国フランチャイズのスタッフは全員メーカーズ系です) と言われても、図面ベースでものづくりをやってきた生産技術者にとって、ものづくりには図面が必要です。
ちょうどプロジェクトメンバーの1名が、米国の各フランチャイズの見学と立ち上げノウハウを実習する機会があったので、彼女に各フランチャイズのカウンターテーブルの採寸をお願いしました。彼女の帰国後、カウンターテーブルの寸法や形状を見ると、かなり違うことが分かりました。そこで基本寸法(テーブルの長さ、高さ、奥行き)は各テーブルの平均値を使い、使い勝手については彼女の意見を取り入れて図面化しました。
図面化に際して大きな課題がありました。米国の各フランチャイズのカウンターテーブルはどれも大型であり、天板をはじめ部品も大型で、日本で買いそろえた小型設備では加工ができませんでした。そこで、ショップの顔であるカウンターテーブルのサイズを変更しないまま、小型設備で加工できるように、モジュラーデザインを行いました。ストレートテーブルモジュール2種とコーナーテーブルモジュール1種の3つモジュールにしました。全てのモジュールのフットプリントは750mm×750mmに統一しました。
製作の手順は次の通りです。手書きの図面→デジタルデータへ変換→木工CNCのプログラミング→加工→塗装→組立→設置。材料は一般のべニア材とパイン材でした。一連の作業は新スタッフを含めたプロジェクト全員で製作しました。製作期間は3日間ほどでした。この宿題のおかげ様で、新スタッフにとっては、タイムリーなOJT教育となりました。
モジュール化することで、小型設備で加工できるようになったこと以外にも、多くの効果を得ることが出来ました。たとえば、モジュールの数を増減することでカウンターテーブルのサイズや形状を変えることが出来る点です。実際、受付スタッフからの要請で2種類のストレートテーブルモジュールを入れ換えることで作業性が向上しました。また、モジュール単体でもフット部品を追加することで、作業机に使うことが出来ました。
ただ残念なことに、このものづくり工房は千人を超す会員様に惜しまれつつ、19年度で閉店となりました。
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