317熱の影響2つの事例
製造設備を評価する場合や導入する場合は、常に環境温度を意識することが大切です。温度変化により、構造物は伸縮することは誰もが知っている事柄です。が目に見えないため見逃し易いと思います。下記に関連する2つの事例を記載します。
<ロボットの精度評価>
入社当初ロボットアームの設計をしていました。垂直多関節ロボット(仮称:M6)でモーター、エンコーダー、ハーモニックドライブを1つのモジュールとして、回転軸と揺動軸を組み合わせて6自由度をもっていました。最大の特徴は、当時の垂直多関節ロボットとしては高精度であることでした。(繰り返し精度:±0.03㎜) 試作機ができると早速評価です。
この精度評価が実に厄介でした。その1つが評価システムの構築です。その当時は6自由度どころか3自由度でさえ、同時に測定できる計測器はありませんでした。また、精度測定したデータを収集するツール、分析するグラフ、表計算ソフトもありませんでした。
XYZの同時計測は非接触で計測できるPSD(Position Sensor Device)を使用しました。PSDから出力されるアナログ信号をデジタルに変換するADコンバーター、ロボットと同期させデータを自動収集するためにPIA(Peripheral Interface Adaptor)を使用しました。また、収集されたデータは、自動的にシーケンシャルファイルに格納させるシステムを構築しました。さらに、データをみえる形にするため、ヒストグラムに表示するツールを合わせて作成しました。システム作成言語はBasicでした。
以上でロボットの精度を自動で計測するための準備ができました。実際の計測は高さ700㎜、縦横1,000×1,000㎜の角パイプの筐体の上に、厚さ20㎜、縦横1,000×1,000㎜のアルミ製の天板の4隅をねじで締結したテーブルに、被測定物のロボットと先のPSDを取り付けてロボットの繰り返しを測定しました。測定は21:00~9:00で無人で行いました。
繰り返し精度の結果は±0.03㎜を大きく外れる数値となっていました。繰り返し精度は、ロボット単体の一定方向からの位置決めのばらつきを示しますが、時間と伴に位置がずれてしまう所謂ドリフト現象が発生してしまいました。厄介なことに原因はすぐにはわかりませんでした。
結局、原因は測定環境の変化(室温の変化)にありました。ロボットとPSDを取り付けていたテーブルが、ねじで締結されているアルミ天板と鉄パイプの筐体の熱膨張の違いで歪んだためです。(ポテトチップスのようなアンジュレーション)
ねじを全部緩めた状態で測定し、ドリフト問題は解決しました。ちなみに、現在はレーザーを使用した6自由度ロボットの位置を計測する設備が専門メーカーから提供されています。今の人達は恵まれている、なんでもそろっていると思いましたが、同時に昔、両親から「お前たちは何でも食べられる、戦時中は食べたくても、食べるものがなかった」とよく言われていたことを思い出しました。
<ティーチング>
精密機器の組立は一般にCR(クリーンルーム)内で行われます。ある精密電子機器の自動組立ラインの開発を進めていました。組立工程、検査工程を含めて10工程くらいのラインでした。ライン開発に当たっては、各工程の設備開発に1名のエンジニアがアサインされプロジェクト体制を組んで進められました。
以前の生産技術部門は大変な部門だったとつくづく思います。各工程の自動化の設備の設計(機構設計、配線配管設計、シーケンス設計)、設備の製造指導、製造後のデバッグ、信頼性評価(評価設備の用意を含む)、ドキュメント作成(取説、立ち上げ、日英対応)、現地導入(設備の設置とオペレータの教育)、導入後のサポートといった業務を1設備1名で対応していました。現在はかなり分業が進んでいると思います。
製造現場への設備の設置、動作確認、チューニングは特に大変です。工場で生産活動がされていない就業後の時間帯、休日での作業となるためです。上記の自動組立ラインの導入も5月の連休中に行いました。工場は連休中のため、空調は効いていませんでしたが、プロジェクト関係者以外は誰もいなかったので、のびのび作業を進めていました。順調に作業が終わり、予定通り連休明けにはラインを引き渡すことができると考えていました。
連休明け、工場の製造技術部門の立ち合いの下、ラインを稼働させました。散々な結果でした。ほとんどの工程でロボットの位置決めがずれていて、まともに組立ができない状況でした。
原因は単純なものでした。休日中にロボットの位置調整(ティーチング)をした時の環境は空調がなく、休日明けのライン稼働時には空調が入っていました。温度差による、ロボットを含めた設備自身の熱伸縮現象による位置ずれであることは明白でした。
単純なミスですが、ティーチング前にプロジェクトメンバーの誰一人も気が付かなった点が残念でした。
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