316 ’90年代後半のフィリピン2版

 1990年の後半から2000年にかけて、品質の安定化を目的としたハードディスクの自動組立ラインを製造拠点であるフィリピン、タイへ導入しました。当時の東南アジアの製造拠点は現在と違い労働組合が十分整備されていない状況下であり、その労働条件は現地の労働者にとってはかなり厳しいものでした。以下に当時のフィリピンと製造拠点の様子を記載します。

 自動組立ラインをフィリピンへ導入したのは1990年代の後半でした。その導入のため、1か月余りの出張予定でマニラの空港に降り立ちました。初日はホテルへの移動だけでした。

 空港からホテルへタクシーで移動する間、いろいろな光景を目にすることができました。市内の路線バスは横浜市営バスでした。正確には、横浜市営バスのおさがりをそのまま使用して運行していました。車体には横浜市営バスの表記がされたままでした。フィリピンは右側通行なので、乗り降りの扉は左右逆に改造されていますが、立派に活躍していました。また、タクシーが赤信号で停車するたびに、赤ん坊を抱いた女性がタクシーに近づき、物乞いする姿にも驚かされました。社会全体が金銭面でかなり苦労している国であることを実感しました。

 翌日、工場に入り、まずは現状のマニュアル製造ラインを見学しました。CR(クリーンルーム)内にある10本あまりの製造ラインは700ミリメートル間隔でオペレータが配置され、彼らたちは白いクリーンスーツをまとって、もくもくと組立作業をこなしていました。それは狭い鶏舎内にいるブロイラーがもくもくと餌を食べている様子を想像させるものでした。(表現的には問題があるのかもわかりませんが、正直な感想です)

 勤務体制について聞くと、1日12時間の2直体制と聞き、間に何回か休み時間があるとは言え、厳しい労働環境だと言えます。昼休み時間になると、現場を離れ食堂に行く者、作業するライン上に顔を伏せて寝ている者など様々です。寝ているのは、昼食代を浮かすためだそうです。とはいえ、このような工場で働くことができるのは、選ばれた人たちであり、彼らにとって喜びであるとのことです。

 自動組立ライン導入の目的は品質の安定化のためですが、作業環境の改善といった意味での自動組立ラインであってもいいと思いました。ところで彼らにとって一番の心配ごとは、自動化によって自分たちの仕事がなくなることにあります。幸い、ラインは完全自動化ではなく、マニュアル作業も必要でした。また、ラインは増設であり、現状のオペレータを減らすことなく、生産を増やす計画であったので、問題はなかったと思います。

 一方、日本側の心配ごとは、導入したラインが不具合で停止することです。当時でも、ラインの稼働状況は、日本にいる本部長の机上のパソコンで、リアルタイムに確認できました。設備がダウンしていると、すぐに呼び出されて、お叱りを受けます。しかし、それ以上に、ラインが停止すると、その間、現地のオペレータは仕事ができなくなり、給料がへってしまうといった点が、一番心配でかつ心苦しかったと記憶しています。

SHIMAMURA ENGINEERING OFFICE

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