308ラリー競技

 学生時代に自動車部に所属していました。公道を走行するラリー競技と専用のダートコースを走行する競技に参戦するため、日々自動車の改造と走行技術を磨くことが主な活動になっていました。車種は10万円ほどで手に入る車です。サニー、カローラ、ギャランの10年落ちの中古車です。以下はその詳細です。

<改造技術>

 このレベルの車で競技会に勝つためには、ドライバー、ナビゲーター、カリキュレーターの腕以上に、車のチューニングが重要となります。足回りでは、ショックアブソーバーを硬いものに交換し、コーナー性能を高めるために、前輪をハの字になるようにセッティングしました。山間部走行時の転倒、落下に備えるため、4点シートベルトやロールバーといった安全装備品を車内に取り付けたり、夜間走行ではより視界がクリアになるように、ハロゲンヘッドライトに交換したり、フォグランプは道路の両脇を照らすようにセッティングしたりしました。エンジン関係ではキャブレター(ガソリンを空気と混合する機器)をシングルタイプからツインタイプへ交換したり、吸気効率を高めるバルブタイミングにするため、バルブを開閉するカムの位相を変更したりしているメンバーもいました。

 さらに、高出力を得るためには、圧縮比を高めることができるオクタン価が高いハイオクガソリンが必要となりますが、バイトで暮らしている学生にとって、ハイオク満タンを頼むことはできないので、ハイオク10リットル、レギュラー10リットルと言って給油してもらいます。ラリー競技に出場する場合、時として開催地まで自走する場合がありました。競技時にガス欠にならないように、ニュートラル走行を含め、省エネドライブにも気を使っていました。また、あるメンバーは車の軽量化にこだわり、車内のカーペット、シート類、後部座席など競技に関係がないものはすべて外してしまいました。煙草を吸う彼にとって、車内は大きな灰皿となっていました。

 以上のような車のチューニングや改造をして、夜間に山間部の林道で走行練習をする訳ですが、ドライブテクニックが未熟なため、メンバーのなかには林道から谷へ落ちる者、ガードレールに突っ込む者、転倒する者もいました。安全装備のおかげで4年間を通して怪我をしたメンバーは1人もいませんでした。ちなみに、昼間に同じ林道を走り、谷を覗くと数台のラリーカーが落ちたままになっていることがよくありました。学生にとっては、のどから手が出るくらいほしい改造部品が付いたままでした。

<走行技術>

 次はドライブテクニックについてです。ダートコースの高速走法は通常の運転技術とはだいぶ違います。以下の通りです。

①ロールバー(転倒時車体の変形を最小限にとどめる補強部材)、4点シートベルを装備した車にヘルメットをかぶって乗車します。これにより恐怖心から解放されます。

②4点シートベルトで体をシートに密着させます。運転時にはフットレストに足をかけ踏ん張ります。これにより体はさらにシートに固定されます。

③クラッチを切ってエンジンをかけます。ギアを1速に入れます。アクセルを吹かし最大トルクが発生する5,000~6,000rpmをキープします。左手でサイドブレーキを外す準備をします。

④スタートの旗が振られたら、サイドブレーキを外し、同時にクラッチをつなげます。

⑤左カーブがみえてきたら、少しだけハンドルを左に回します。すると後輪が弧を描いて滑り出します。すかさずハンドルを戻し、若干右に回します。ここでアクセルを吹かすと小さな回転半径で曲がることができます。アクセルを戻すと大きな回転半径で曲がることが出来ます。これをドリフトといってハンドルでコーナーを回るのではなく、アクセルの加減でコーナーを回るダートの基本的な走行です。重要であるのが、いかに正確に車の滑り出しを検出するかです。この滑り出しを検出するのが、人間の場合、腰と背中です。②で体をシートに密着する理由がここにあります。

 以上が、基本的なダート走行の流れですが、天候、コーナーの路面状況、車速、ギアなど様々な状況で微妙な調整が必要となります。全ての状況について上記のよう手順書を作成し、新入部員に渡しても、走行はできません。センシング機能が無いからです。人間のセンシング機能は、訓練によって養われるからです。無数にある条件に対し、最適な走行を選択することも多くの経験が必要です。人間の場合ポカミスもあります。

<モータースポーツと生産技術>

 ラリー競技を含むモータースポーツにはメカニックがいてドライバーいて、まさに設備チューニングと設備のオペレーションといった生産技術と重なります。モータースポーツでは競技に勝つため徹底的にロスを削減します。生産技術者はモータースポーツを見習うべきかもしれません。

SHIMAMURA ENGINEERING OFFICE

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