307部品図の価値

 機械の設計図面には組立図と部品図の2種類があります。エンジニアリング会社に設備の設計、製造を依頼すると出来上がった設備と組立図はユーザーへ渡されますが、部品図は特別な事情がない限りユーザーへ渡されません。それは、部品図には多くのノウハウが詰まっているためです。

<寸法と公差>

 設計者の意図する部品が正しく製作されるためには、正しい寸法と適切な公差の設定が重要です。さらに、加工基準、組立基準を設定することも重要です。寸法を記載する場合寸法線(←→)を使いますが、部品のある面を基準にして寸法線を引き、寸法線の上部に寸法と公差を記入します。

 なぜ基準が必要なのでしょうか。1つは、組立誤差を最小限にするため(組立基準)。もう1つは工作機のベース基準と合わせることで、ばらつきの少ない部品に仕上げるため(加工基準)です。例えば、直方体の場合、高さ、幅、奥行きの3つの基準があります。さらに組立性や加工性の都合により、それぞれに第2基準、第3基準を設けることもあります。例えば、段付き丸棒のような円柱形状の場合は、長さ基準と軸基準の2つになります。円柱形状の部品の多くは、旋盤で加工するため、部品の回転中心の軸を基準とします。

 入社当初、段付き丸棒の部品図を作成し、工場へ製作依頼を提出しました。工場へ製作の様子を見に行った時、どういうことか旋盤作業者が部品図を上下逆さまに図面台に取り付けて作業していました。「見にくくありませんか?」と尋ねると「旋盤の場合、材料の左端をチャッキングして、右端からバイト(刃物)を送って削るので右側基準で寸法記入してくれないと困る」とのことでした。提出した図面は左側端面を加工基準にしていたためでした。

<表面粗さと注記>

 表面粗さは、部品図の各形状線の上に▽記号の数で表します。▽が多くなればなるほど表面状態はつるつるになります。ある日、▽の数の決め方をすぐ上の先輩に聞いたことがありました。「平面の基準面は▽2つ。穴と棒のはめあわせは▽3つ。面と面を合わせる場合は▽2つ。面合わせしなければ▽1つ。まったく加工しない場合は∽記号。▽4つは、よほどの必要性がない限り使用してはいけない。研削加工になり、高くつくから。」といった具合に教わり、結局長い間その基準で表面粗さを決定してきました。下記以外には大きな問題なく使用できる基準でした。

 ロボットの関節モジュールを設計する際に、表面粗さで失敗したことがあります。ロボット関節のなかには減速機としてハーモニックドライブが組み込まれています。この減速機を潤滑するオイルが外へ漏れないように、回転摺動部にゴム製パッキンを取り付ける必要がありました。外形寸法φ100㎜ほどの円筒部分にパッキンをはめ込み、オイル漏れを防止しようとしました。円筒部分の表面粗さは▽3つにしました。結果、オイルは見事に漏れてしまいました。

 円筒面の仕上げを旋盤で行うため、軸方向へのバイトの送りが入ります。この送りによって円筒面に螺旋状の跡が形成され、オイルがその螺旋に沿って、パッキンの外へ出て行ってしまったのです。どんなにきれいに表面を削っても、螺旋ができた時点でアウトになります。

 同様なロボットの関節を設計していた先輩の図面を見ると、同じく▽3つでしたが、「突っ切りバイト使用のこと。軸方向の送り厳禁」との注記がありました。「なんで教えてくれなかったのですか?」「だってパッキンの取説に書いてあったよ!」

SHIMAMURA ENGINEERING OFFICE

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