304公差の話と誤差の話
公差は、製造の過程において設定するものであり、設計における寸法の許容限界のことを指します。一方のバラツキは、実測したデータとの誤差のことを指します。つまり公差は設計段階において定められた「仕様」であるのに対し、バラツキはその公差の情報を元に製造をした「結果」なのです。したがって公差とバラツキは全く異なる性質を持ったものであり、公差が大きいことはバラツキが多いということとは直結しないのです。
Web NISHUIKI SEIKI 公差の基礎知識より抜粋
公差と誤差は設計をするに当り悩ましものです。これにまつわる経験を記載します。
<公差の話>
機械設計者であれば、最初にぶち当たる壁の1つに寸法公差があると思います。製図や力学の計算は大学で学ぶので、ある程度はできますが、部品図を作成する場合の寸法公差はどのように決めればよいのでしょうか。当然、公差の積み重ね計算で求められるものもありますが、ほんの一握りでしかありません。公差はすべての寸法に付与しなければならず、悩ましい問題です。
1つには、かなりの経験を積まないと適切な公差を寸法に付与することができないということです。穴と軸のはめあわせが、よい例です。すきまばめ、中間ばめ、しまりばめなどがあります。軸を穴の中でガタなく、回転させたい場合、軸と穴とでどのような公差を選んだらよいのかは、実際にものを作ってみて、自分の手でガタの具合、回転具合を覚える必要があります。そして、その具合で実際に機械に組み込んで、目的とする動作をするかを確認する必要があります。また、公差は上限、下限があるので、その影響も確認する必要があります。最初はベテラン設計者の公差記入をまねることも重要であると思います。
治工具を設計する場合は、IT基本公差を使うことも1つの手です。IT公差は寸法ごとに公差が定められており、等級が小さいものほど高精度の治工具となります。当然、高価なものとなります。入社当初、先輩の寸法公差は小数点3桁まで記入されており、どうやって計算しているのだろうと、長い間疑問に思っていましたが、IT基本公差を適用していたのだと後程わかりました。
<誤差の話>
自動組立において最も基本的なテーマは、ピンの挿入の問題です。ワーク側の穴に対し、ピンを確実に挿入できるかどうかです。通常、製品の組立では、組立(ピン挿入)後にガタがないことを求められます。したがって、ピンと穴のガタは1/100mmレベルの隙間で管理されています。言い換えれば、1/100mmの精度で穴とピンの位置決めができないと、挿入ができないことになります。
しかし、現実的には穴の寸法誤差、ピンの寸法誤差、ロボットの位置決め誤差、ロボットのティーチング時の誤差など、もろもろの誤差からなるトータル誤差からを考えると、1/100mm精度はとっても不可能な数値となります。そこで製品設計側で、穴、ピンの両方に面取り加工し、入り勝手を付けます。すなわち入り勝手分の位置ずれは許容されるということです。
再度、誤差について考えてみます。前述の各誤差の最大値(最大許容誤差)をすべて合計した誤差が、先ほどの入り勝手の寸法に納まっていれば問題ありません。実際は入り勝手の寸法よりかなり大きな値になる場合が、多々あります。そこで、各誤差の最大値がすべて揃う確率は非常に低いという前提で、次の様に考えます。
穴の寸法誤差±0.02mm、ピンの寸法誤差±0.02mm、ロボットの位置決め誤差±0.05mm、ティーチング誤差±0.05以内に3σの信頼性でそれぞれが保証されている(99.97%は誤差内)と仮定します。トータルの誤差は標準偏差の合成式2乗和平方で求められます。この例の場合、トータルの誤差は±0.076mmとなり、これが3σの信頼性を持ったトータルの位置ずれ量に相当します。ちなみに、最大誤差の合計は±0.14mmです。当然、それぞれの誤差が4σの信頼性であればトータルも4σの信頼性となります。
一般に、世の中の加工、組立、調整ほか、主要な仕様項目の信頼性は3σ以上であるといった暗黙の了解の下に成り立っています。機械設計で設計者が使う公差も同じ様に使うことができます。実際のものができる前に、各製造工程の能力、歩留まりを設計することができます。
経済の分野、工学の分野など様々な分野で活用されている統計学は、今後の製造現場のデータ分析の広がりに伴い、最強の学問として展開されると思います。
0コメント