303改善技術と活用技術

 改善技術とは、弱点を補強する技のことで、活用技術は弱点を積極的に使う技のことです。ここでは、機械要素の1つであるハーモニックドライブを例に取って記載します。

<改善技術>

 産業用ロボットに興味がある方であれば、ハーモニックドライブといった言葉を聞いたことがあると思います。小型で同軸上に高い減速比をえることができる機械要素です。ウェーブジェネレータ、フレクスプライン、サーキュラスプラインの3点の基本要素で構成され、関節型ロボットの減速機として、非常に重宝な機械要素です。

 入社後数年間、ロボット機構の設計に携わっていた関係で、ハーモニックドライブとは長い間付き合うこととなりました。ある程度の形状の仕様変更にも柔軟に対応できるため、設計自由度が増し、数々の関節構造を生み出すことができました。

 ただし1点大きな問題がありました。それは、楕円状をしたウェーブジェネレータから発生される1/2回転に1回発生する振動でした。ロボットがスムースに駆動できるようにするためには、この振動の低減が大きな課題となりました。最大の原因はウェーブジェネレータの取り付け精度(回転主軸に対して、同軸上にいかに精度よく取り付けるか)でした。当時、主軸であるモータ軸との取り付けには、h6H6の厳しいはめあい公差を使い回転方向の締結にはキーを使っていました。さらに振動を低減するため、ハーモニックドライブを2個使いで、位相を90度ずらして取り付けていました。こうすることにより、振動は1/4回転に1回となりかつ、振幅も半分ほどになります。

 長年苦労してきた振動対策でしたが、ウェーブジェネレータと主軸の締結に、コーン形状の締結要素の小型メカロックが出回り、まさにスマートにこの課題をクリアしました。技術は日進月歩ですが、原理はいたって基本的なもので、なぜもっと早く気が付かなかったのだろうかと思いました。以来、このような思いはあらゆる開発を進める中で、常に付きまとうこととなりました。

<活用技術>

 一般的なギア列においては、動力伝達をスムースに行うため、ギアとギアのかみ合いにバックラッシュというガタを持っています。しかし、ロボットをはじめとして自動化の設備の場合、逆方向へ移動する機構がほとんどで、このガタが位置決め精度に影響することがあります。そこで、このガタを低減するため、ばね等で与圧を与える機構を組み込むことがあります。

 一方、ハーモニックドライブは構造上、ガタは発生しませんが、回転が逆方向になる時、ロストモーションといった剛性が極端に小さい状態が発生します。ガタの場合は、そのガタの範囲のどこで停止するか(位置決めされるか)わかりません。ハーモニックドライブの場合、剛性は小さいものの位置決めされます。

 この性質を利用した代表的なロボットが水平関節ロボットのSCARAです。SCARAは水平面内での稼働に限られていますが、部品を組み立てるピック&プレイス機能としては、理にかなった構造となっています。

 組立に必要な基本機能は部品の挿入です。(文献によっては組立の挿入のことを装入と書いてあるものもあります) ワークの穴に対して、ロボットハンドで掴んだ部品がちゃんと挿入できるかです。当然ワークにも部品にもロボットハンドにも誤差があります。普通穴側にも、部品の先端にも面取りが施され、入り勝手がいいようになっています。しかし、ガチガチの剛性を持ったロボットの場合、いくらは入り勝手が良くても位置がずれていたら挿入できません。ハーモニックドライブを搭載したSCARAロボットは先ほどのロストモーションの性質を利用して、人が手で挿入するように柔軟に部品の挿入ができるといった訳です。

SHIMAMURA ENGINEERING OFFICE

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