305センスを磨く
技術者としてのセンスを磨くには、多くの経験とそこで養ったカンが大切になります。
<公式の必要性>
「2倍の質量の物を持ち上げるためには、2倍の力が必要だ」「2倍の速さで走れば1/2の時間で目的地に着く」など、リニアな関係にある事柄については、カンが働きやすいと思います。一方で、乗数に関係したり、平方に関係したりすると、途端に感が働かなくなります。
材料の曲げ強度の場合、断面が円形の片持ち梁の直径を2倍にすると、梁のたわみ量は1/16になります。断面が長方形の片持ち梁を曲げ方向に2倍の厚みにすると、梁のたわみ量は1/8になります。動力学で言えば、イナーシャは減速されると減速比の2乗分の1になります。標準偏差も3σから4σになると不良の発生率大幅に改善されます。
力学にしても統計学にしても公式(モデル)があります。パラメータをどの程度変更すると、どの程度の効果が得られるかを察することができます。これが設計者のカンとなります。数多くの設計経験がある技術者は、このカンが鋭いといえます。カンが鋭いということは、詳細な計算を行わなくても、構造体、機構などを短時間に数多く創り出すことができます。出来上がった設計図を見ると、ムダがなくバランスがよいものとなっています。
若手の設計者は、とにかく多くの設計、計算をこなし、カンを養ってほしいと思います。
<本物を見る>
会社に入って間もないころ、プリント基板用の銅のプレートを搬送する設備とその前後のローダー・アンローダーを設計することになりました。初めての設計業務でモチベーションは非常に高かったと思います。早速方式をいくつか考え上司のアイデアも盛り込んで仕様化しました。ローダーは積層された銅のプレートを1枚1枚切り出し搬送機構へ送りだすシステムで昇降機構と吸着払い出し機構の組み合わせでした。搬送はエアーとローラーの組み合わせ搬送方式でした。アンローダは搬送機構からの銅版の取り込みをローラーで案内して、重力による落下積層だったと思います。
この仕様を実際に図面に起こすための経験もカンもありませんでした。当時同じ建屋の1階に試作工場がありました。そのおかげで、デバック中の数台の設備を見たり、デバックを手伝ったりして先輩、工場の組立班のメンバーから設備について学ぶことができました。筐体用の鉄骨材の大きさ、設備を支えるフットのサイズ、水準器を乗せる場所、水準だしのやり方、位置決めピン、配線のルーティング、信号チェック等々そこには設備設計に必要な要素が凝縮されていました。
僅かな期間でも経験らしきもの、カンらしきものが身に付き、案画(組立図)を作成することができました。しかし、部品図にばらした後の寸法公差、表面粗さ、材料の選定や処理については、ほとんど先輩が決めました。部品図の経験やカンは短期間にはできそうもないと感じました。強度計算やトルク計算は教科書通りに行う事が出来ましたが、適正な寸法公差を決めることが出来るようになるために、時間がかかったと記憶しています。
<機械技術者の養成ついて自動組立の世界的権威の牧野先生の著書から>
どうしたら機械設計技術者を養成できるか。これは、私の考えでは、動いている良い機械を見せることと、バランスのとれた良い図面を見せることの二つにつきるのではないかと思う。そうして設計のアイデアについて、絶えず討論が行われ、描かれた図面について上司やベテランによるチェックがなされなければならない。そのためには、機械設計者は集団をなしていなければならない。
以上、技術調査会発行「裏返しのメニュー」牧野洋著より抜粋
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