278 IoT AI導入の説明と説得
「工場・化学プラントへIoT・AIを導入するための経営者への説明・説得の仕方の根拠の示し方」について技術情報協会の書籍の中に記載されています(大橋コンサルティング事務所:大橋幸夫)。以下は記事の一部抜粋です。
経営者層を説得する場合、大前提として、IoT・AIの導入によって、どのKPI(Key Performance Index:重要業績評価指数)を向上させるか?という目的を明確にする必要があります。主なKPIとしては、例えばMES(Manufacturing Execution System:製造実行システム)領域でのKPI国際標準(ISO22400)では表1(略)に示すような6つのカテゴリーについて34の項目が挙げられています。IoT・AIの導入によって工場・プラント設備に膨大に設置されたセンサーや制御設備から得られる情報を標準化し、統一した指標で評価(ベンチマーク)することが出来るようになります。特にドイツではIndustry4.0の取組みの中で、この標準化を最重要視しています。逆に、これらKPIのどの指標を向上させる為に、自社では、どのセンサーや制御設備のIoT・AI化を図るべきか?という観点も必要です。
その上で、これらKPI指標を向上させることによって、財務諸表のどの数値を向上させることができるか?また、経営戦略に基づいて、現在自社が掲げている経営目標値を達成できるか?といったような、経営層が興味を持ちそうな効果に結びつけるストーリーを立てて説明できなければなりません。その為には、KPI指標と興味ある経営成績数値との間の正の相関関係(KPI指標が上がると、経営成績値も上がる)を、できれば数式として表し、定量的に説明できるようにしておく必要があります。
以上、記事の抜粋 より
以前、IoT・AIによる品質改善に取り組むために、あるプロジェクトを発足させたことがあります。具体的にはグループ工場のプリント板の製造歩留を安定化するため、工場保有の製造データを活用して、品質劣化を予想し、不良発生を未然に防ぐといった活動をするプロジェクトです。
どのようなプロジェクトであっても、活動するためのリソースの確保が最初の課題です。このプロジェクトで想定されるメンバー約10名と調査などの外注費が数百万円と開発ツールが必要となります。これだけのプロジェクトを立ち上げるためには、経営層の承認が必要となります。経営層は大きなビジネスユニットの経営責任があり、技術云々の前に、お金の出入りに非常に厳しく、新規プロジェクトのような案件は特にその説得に工夫が必要となります。
結局、経営層への説明は合計5回ほどやって、ようやく了承してもらいましたが、その手順は次のようなものでした。
①IoT・AIに関する世界市場の動向についての説明。案件が工場の改善内容であっても、それが外部ビジネスにどのように展開できるかといった視点で経営層は常に考えています。市場規模と競合他社の動向の説明は大切です。
②メーカー系の経営層には技術に詳しい役員もたくさんいます。裏付けされた技術を使ってこれから取り組む内容について説明します。社内保有の技術や製品の活用や社内の関連部門との連携や外部団体との連携を重視します。
③最も大切なのが、効果です。いくら儲かるの?です。効果額が小さいと、その案件の説明を聞いてもらえません。少なくともビジネスユニットのプロフィットまたはコストの1割程度の効果額を示す必要があります。したがって事前にその効果額を積み上げることが出来るストーリーが必要です。(本件では歩留まりを指標にコスト削減額をKPIにしました)
④説明が通り、プロジェクト承認が下りても、リソースが確保できたわけではありません。リソースの中で最も重要であるのがメンバー(技術者)の確保です。IoT・AI関係の技術は従来の製造関連以外の技術者が必要となります。そこで社内(ビジネスユニット内)募集を行います。募集により引き抜かれた部門には負担になりますが、経営層承認のプロジェクトであるといった理由で理解してもらいます。その他のプロジェクト予算については経理に交渉をします。(ビジネスユニットの予算枠で調整してもらいます)
経営層への説明は大変ですが、プロジェクトがやらなければならないことが明確になり、責任感を養うといった点で、プロジェクト立ち上げの大切なプロセスの1つです。
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