259日航機のエンジントラブル

「熊本発の日航機でエンジントラブル 約400個の破片が地上に落下」という記事が日経ものづくり2020年11月に掲載されています。その原因について広島大学の澤名誉教授の見解は次の通りです。

 運輸安全委員会の調査報告書を読む限り、高圧タービンのブレードが破断した今回の重大インシデントの原因について、かなり詳細な調査が行われているという印象を受けた。その結果を受けて、運航会社である日本航空は問題のブレードについて総取り換えを実施している。また、国土交通省も当該ブレードの点検を国内の航空会社に指示している他、エンジンメーカーによる再発防止策も講じられている。

 今回、ブレードが破断した背景の1つに、コーティング層の高温腐食があった。タービンなどの高い温度にさらされる機器にとって、高温腐食は金属に亀裂をもたらし、事故の要因になると広く知られている。ただし、近年では高温腐食の防止策の研究が進んでおり、一般にはほぼ問題にならないと推測している。

 しかし、今回の重大インシデントでは、破断した13番ブレードのアルミナイド・コーティング層に厚い部分があり、ここから亀裂が発生した他、疲労の兆候を示す痕跡も確認されていた。調査報告書によれば、13番ブレードと同型の3番、5番ブレードのコーティング層も、設計要求と製造要求の範囲内ながら他のブレードと比べて相対的に厚く、高温状態で発生した腐食や亀裂もあった。逆に、コーティング層が薄いブレードは、同層の亀裂が発生していない。

 調査報告書では、ブレード内部にある空気通路を分岐する隔壁の立ち上がり部(TA部)について、曲率半径が小さかったことも一因と指摘している。定性的には、曲率半径が小さいと応力集中が生じやすいことは確かだが、その応力集中が定量的にどの程度であったのかは分かっていない。同じ古いタイプのブレードでも、コーティングの厚いもののみにコーティング層の亀裂が確認されていることから、ブレードが破断した主たる要因は、コーティング層の厚みが支配的だったと考えるのが妥当だろう。

以上、日経ものづくり 2020年11月号 より

 以前、プリント基板のメッキの亀裂について原因を調査したことがあります。対象となったのは、何十層にもなるプリント基板の各層のパターンを接続するスル―ホールのメッキでした。プリント基板は電子機器、自動車、航空機、船舶の制御ユニット、医療分野など幅広くに使われる部品です。中でも車載用のプリント基板は厳しい環境試験をパスする必要があります。特に温度についてはマイナス数十℃~プラス数十℃までの広範囲に繰り返し耐える必要があります。

プリント基板の構造は、樹脂・金属からなる数十層の各パターン間を接続するために、貫通孔(スル―ホール)をあけて、その貫通孔内面に金属メッキを施します。樹脂部分は通常の電気メッキはできないので、最初に無電解(化成処理)でメッキを生成させます。その厚さは数ミクロン程度であり、電気を通すために十分な厚さではありません。そこで無電解のメッキの後に電解メッキを行うことで、メッキ厚を数十ミクロンにします。

 先ほどの環境温度範囲で試験を行うと、プリント基板の樹脂と金属とでは、熱による伸縮率が異なるため、メッキに曲げモーメントが発生します。そこで日航機と同じ問題が生じます。メッキが厚くなるとメッキ表面の応力が大きくなります。薄くすると規定の電気容量を満たすことができなくなります。製造上では、この両者を満足できるメッキ厚さにばらつきなく処理することが求められます。ちなみに、メッキ槽の温度が1℃変化するとメッキ生成速度は数倍に変化します。

 日航機のコーティング層の厚み、プリント基板のメッキ厚みは断面を見ないと正確に計測できません(製造物を破壊しなければいけません)。製造では非破壊で品質を保証するため、いかに製造条件をコントロールするかにかかっています。まさにIoTとAIが必要とされる分野だと思います。

SHIMAMURA ENGINEERING OFFICE

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