238 IoT/AIの活用(ニーズ~収集)
以前、IoT/AIを活用した品質改善のフィージビリティースタディーを行いました。2回に分けて取り組み内容を記載します。第1回目はニーズ~収集です。
<ニーズ>
IoT/AIを活用して品質改善へ取り組もうとしたきっかけは、プリント基板を製造するある工場からの依頼によるものでした。日々の品質管理はちゃんと行われているにもかかわらず、年に1回程度、突発性の品質問題が発生するとのことでした。原因はわからず、ラインを停止し、工程の液槽をすべて入れ換えるなど、膨大な費用と時間をかけているのでデータを使って何とかしたいとのことでした。そこには明確なニーズがあり、当時所属していた生産技術部門でも、データ活用の取り組みが行われていたので、プロジェクトを作り、課題解決に取り組みました。
<プロセス系工場>
プロセス系工場には、鉄系、非鉄系など、原材料から精製して均一素材を製造する工場や、その資材から単一部品を作る工場があります。さらに、半導体やプリント基板の様に、複数の素材を使い、化学反応、電気的な処理を施してものを作ることもあります。いずれも、専用設備がなければ、ものづくりができない工場です。
ガラスやプラスチックなどの単一製品の場合は下流工程で不良となっても、不良品を原材料として取り扱うことができます。半導体、プリント基板のような複合素材の製品の場合、不良品は産業廃棄物として取り扱わなければならない物もあります。この場合、不良は材料のロス、製造時にかかるエネルギーのロス、さらに廃棄物処理にかかるロスなど、多くの問題を抱えています。
<データを活用した品質改善>
異常予兆検知のAIシステムを導入するために、現地調査からフィージビリティースタディーを1年かけました。異常予兆を検出するためには、まず十分な製造データ、プロセスの条件データと、その結果出来上がった製品の品質レベルがどの程度になるかの結果のデータが必要になります。過去に遡ってそれぞれのデータが、時系列または製造ロットと紐ついていることが必要となります。その紐ついたデータをAIシステムで学習することで、予測モデルを作り、その予測モデルに直近の製造データをインプットすることで、実際の結果が出る前に、品質のレベルを予測します。(異常の予兆を検出します)。
特にプロセス系の工場の場合、製造リードタイムが数週間になることも、まれではありません。条件設定やチューニングを行っても、それが良かったのか否かをすぐに知ることができないので、AIの導入は有効であると考えられています。AIシステムは専門メーカー各社から提供されているので、購入は容易です。しかし、AIシステムを導入する前に、やっておかないといけないことが山ほどあります。その一つが、データの棚卸とベテラン技術者による要因分析です。
<現場の現状分析1>
最も重要なのが、データがあるのか? です。プロセス系の工場の場合、製造そのものは大型の自動化設備で行われています。オペレータはその状態を常に監視して、規定の条件の中に納まっていなければ、設備をチューニングします。対象の多くは、温度、濃度、圧力、ラインスピード、時間などがあります。このデータがどのような方法で、どのような頻度で採られ、どこに格納されているのかが、明確になっていて、初めてデータがあると言えます。またデータがあっても、AIシステムで分析するのに十分な量、質のデータであるのかも、重要です。
<現場の現状分析2>
製造要因の場合には特性要因図やFMEAによる4M分析を行います(フィージビリティースタディーでは特性要因図を使いました)。膨大なデータを使って品質の予測、設備の故障予兆を求めるために、仮説を立てて要因を絞ることは効率の面でも信頼性の面でも重要です。さらにその作業を通して、今まで気が付かなかったことが見えてきたり、先入観などを払拭したりすることができます。ものづくりの中にIoT/AIを導入するに当り、特性要因図による分析、FMEAは必要なプロセスだと思います。
<データ収集>
品質の異常予兆検知を行うには、AIによるデータ分析で学習に用いる加工条件、状態データとそれに対応した加工結果のデータが必要となります。加工条件、状態データには加工結果との相関性がある項目が含まれていることや、データ分析を行うための十分なデータ量があることが求められます。そのため、データ棚卸や要因分析を行った結果、データの項目数やサンプル数が不足していた場合には新たにデータを収集する必要があります。フィージビリティースタディーではAMR(Analog Meter Recognizer) といったツールを使って収集しました。AMRはアナログメーターをカメラで読み取るツールで、既存設備を停止させることなく、取り付けるツールです。
収集したデータにどのような項目が含まれているか、計測内容、単位、桁数などを正確に理解しておく必要があります。設備で自動的に収集されるデータは、得てして日常の運用シーンでは利用されず、現場の技術者でも十分把握してない場合があります。設備メーカーのヒアリングを含めた調査が必要となります。
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