227勘でなく データでなくせ 不良品

 2020年10月28日(水)付けの朝日新聞に「勘でなく データでなくせ 不良品」といった記事が掲載されていました。滋賀大学の河本薫教授への取材記事です。下記はその記事の抜粋です。

 河本薫教授の研究室が取り組むのは、実験装置を用いて実際のデータを収集しながら進める「製品の不良発生メカニズム」の解析だ。ネット経由で大量の情報が行き交うビッグデータ時代に生まれた新しい職種、データサイエンティスト。ITと数学を駆使し、データに潜む秩序やパターンを探り出す。コンピュータに向かって黙々と仕事をこなし、「データが届いてから仕事」というイメージもある。

 だが河本さんは、データを取るところから関わるべきだと考えている「生産部門から届いた不良品を分析するだけではなく、発生プロセスそのものを追う」と、研究の意義を説明する。誰も不良品を作りたくないが、意図せず失敗が起こるのは、何らかの外乱が影響しているから。この「思わぬ外乱」をデータ解析からあぶり出すという。数年前まで企業の現場にいた河本さんらしい発想だ。

 ~中略~ 8月滋賀県彦根市にあるキャンパスの研究室に、1台の実験装置が運び込まれた。炭酸ナトリウムと硫酸亜鉛をそれぞれの水溶液に混ぜ合わせ、炭酸亜鉛の結晶でできた粒を作る装置だ。 ~中略~ 「本当の工場ならば、トレーラーで原料を巨大なタンクに運び入れ、大型の反応槽と太い配管で結ぶなどする。しかしこの実験装置は、ざっと数万分の1のサイズ。この小さな世界に現実の工場を再現し、運転条件を変えながら製品に及ぼす影響を観察します」 炭酸亜鉛の結晶の直径にはばらつきがある。溶液の濃度や流速、かき混ぜる速度などが変化すると、このばらつき方が変わり、実際の工場ならば不良品になる。このミニ工場で小さな実験を行い、不良品の発生を抑える方法を探るわけだ。

 ~中略~ 実際に装置を動かすと、単純な計算では導けない現象にであう。たとえば溶液の濃度を変えても結晶の大きさはすぐには変化しない。「工場でも、技術者がそれぞれの勘と経験に頼っている部分だ。これをデータ解析によって正確に予想したい」と、河本さんがねらいを離した。 ~中略~ ある瞬間の測定値だけでなく、連続して測定したデータをうまく使って、不良品を出さない方法を探るという。

 近年、あらゆるものがネットにつながる「IoT技術」の発展などによって、大量のデータが容易に得られるようになった。「裏をかえせば、これらのデータを生産性や品質の向上に生かせなければ、我が国の製造業は生き残れない。データサイエンティスト育成は急務だ」と河本教授は話した。

 以上、記事の抜粋です。以前、次のようなプリント基板製造の品質改善にIoT/AIを活用したフィージビリティースタディーに取り組んだことがあります。

 IoT/AIを活用して品質改善へ取り組もうとしたきっかけは、プリント基板を製造するある工場からの依頼によるものでした。日々の品質管理はちゃんと行われているにもかかわらず、年に1回程度、突発性の品質問題が発生するとのことでした。原因はわからず、ラインを停止し、工程の液槽をすべて入れ換えるなど、膨大な費用と時間をかけているのでデータを使って何とかしたいとのことでした。そこには明確なニーズがありました。

 具体的には、データを使って品質異常が発生する予兆を検知しこれに基づいて改善対策を実施する仕組みの開発に取り組みました。異常予兆を検出するためには、まず十分な製造データ、プロセスの条件データと、その結果出来上がった製品の品質レベルがどの程度になるかの結果のデータが必要になります。過去に遡ってそれぞれのデータが、時系列または製造ロットと紐ついていることが必要となります。

 膨大なデータを使って品質の予測、設備の故障予兆を求めるために、事前に仮説を立てて要因を絞ることは効率の面でも信頼性の面でも重要です。さらにその作業を通して、今まで気が付かなかったことが見えてきたり、先入観などを払拭したりすることができます。ものづくりの中にIoT/AIを導入するに当り、事前の要因分析は最も重要なプロセスの一つだと思います。

 事前の要因分析といった点で、滋賀大学の河本薫教授のミニ工場を活用した取り組みは、将来のデータを活用した品質改善の一つ型を示していると思いました。スマート工場の実現に向けて、真っ先に製造工場をIoT/AI化に着手するのではなく、IoT/AI化されたミニ工場を使って品質改善の実証を行った後、その実証結果をもとに、サイバーフィジカルに合わせてIoT/AI化するといった考え方もできると思います。

SHIMAMURA ENGINEERING OFFICE

ものづくりの普遍のテーマに取り組んできた生産技術者の備忘録です。 スマート工場に向けた自動化、IOT、AIの活用について記載しています。 ご相談は下記のシマムラ技術士事務所へ。 It describes Automation and IoT/AI for smart factories. For consultation, please contact the following office.

0コメント

  • 1000 / 1000