206 3Dプリンターの活用

 「まだまだ技術的な発展の余地があるだけに、3Dプリンターによる製造(アディティブ製造)は非常に大きな可能性を秘めた技術である。既存工法で造っていたモノの造り方を単に置き換えるだけでなく、アディティブ製造の特徴を最大限に生かした使い方を模索したい。設計を見直して形状を変えるのに加えて、従来の業務フローやビジネスモデルの革新にもつながるはずである」日経ものづくり 2020年10月号 より

 過去に経験した3Dプリンターを活用した事例について記載します。

 <試作への活用>パソコンやスマホの様に樹脂成型部品から構成されているプロダクトの場合、最もコストがかかる工程の1つに型化があります。3D-CADで設計したデータを使って仮型(モックアップ用)を起こします。仮型で成型した部品は、形状はもとより、色合い、質感といったものを確かめます。開発初期段階の重要なプロセスです。修正をかけるためには、仮型に追加工を施したり、部品を追加したりします。仮型は金属ではないとは言え、複雑な形をしているためかなりの工数がかかります。

 次に本型になります。本型で成型した部品が当初の機能を満足しているかを確認します。たとえば、パソコンやスマホの場合、アッパーフレーム、ロアーフレームの中に、プリント板、メモリ、ディスプレイ、ケーブル類が隙間なく、無理なく収納されているかを確認します。仮型と同様に、設計変更、型修正、成型品での確認を何回か繰り返して、フィクスされます。フィックスされた本型のデータを使って、量産型を作ります。量産型は型持ちが良くなるように、すなわち耐久性を向上させるため、処理を施します。

 3Dプリンターを使うことで仮型、本型の製作がなくなります。設計者から提示された3Dデータから直接樹脂でモックアップや機能チェック用のモデルが出来上がります。企業としては、少々精度が良い3Dプリンターの購入が必要ですが、開発工数の大幅な削減ができます。今では、3Dプリンターによるモックアップや機能チェックは開発プロセスの中に組み込まれています。

 <治具への活用>ブログ№049、№169で紹介したものづくり工房では、月数回ほどものづくりワークショップを開催していました。その分野の匠が先生となり参加者を募って、その場、その時間内に革の作品、木製の作品、テキスタイルの作品を仕上げます。市販の製品レベルの作品が出来上がり、お持ち帰りしてもらいます。また、企業の新人研修の一環としてものづくりを体験するといった企画もありました。その企画の中に、ドローンを製作するワークショップがありました。

 市販のドローンを準備して、既存の4つのプロペラを取り外し、参加者が思い思いのプロペラを製作してドローンに取り付けます。ドローンが飛ぶか、飛ばないかといった興味もありますが、参加者がどういった考えの下に製作に取り組んだかの発表もあり、大いに盛り上がりました。

 ドローンのプロペラの製作手順は次の通りです。①粘土でプロペラを創作する。②3Dスキャナーで粘土の3Dデータを作成する。③そのデータを使って、3Dプリンターで樹脂製のプロペラをアウトプットする。④ドローンに取り付ける。以上です。3D設計は必要ありません。

 たとえば、製造ワークの固定治具を作る場合は、粘土の上にワークを乗せ、上から押し付けると粘土にワークの形が転写されます。それを3Dスキャナーと3Dプリンターを使って、前述のドローンのプロペラの様に、樹脂製の固定治具を作ることが出来ます。

 たとえば、ロボットで複雑な部品を摘まみたい時。その場合も粘土で部品の型を採り、同じく3Dスキャナーと3Dプリンターを使って樹脂製のロボット用のフィンガーができます。

 以上の事例から、3Dプリンターは製品の開発から製造までの過程において、QCDを大幅に改善できることが分かります。3Dプリンターの最終製品への適応にはまだまだ多くの課題がありますが、最終製品に適応する前に適応できることは沢山あると思います。

SHIMAMURA ENGINEERING OFFICE

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