203ものづくりデータサイエンティスト(その2)

 「ものづくりデータサイエンティストには、さまざまな能力が求められる。」~中略~「まず、ものづくりの現場業務における課題を抽出する能力だ。この能力は、現場で活躍する人材には普通に備わっているが、データサイエンスの素養も加われば、適用対象として抽出できる課題の種類や幅は広がる。そして、データサイエンスを踏まえた形で課題を表現し、どのようなデータを取ってどのように蓄積すればよいかの方向性を決める能力も必要だ。」

 「その後、データを適切な手法で分析する。それに当たっては、基礎的な分析手法などを正しく理解して身につけているのが望ましい。ただし高度な分析手法や、最新の機械学習技術などを自分で使いこなす必要があるとは限らない。そのような技術を持つ社内外の専門家に依頼できるだけの知識があれば十分といえる。」

 「こうして得られた分析結果を解釈する能力も必要だ。データの意味を理解して対応策を決めるには、ものづくりの現場業務や、現場で起こる現象に対しての洞察が求められる。」「最後に、課題の解決策を現場の業務として実現する力も重要となる。机上の空論ではなく、経営と現場の双方の人を動かして実運用が始まってこそ、ものづくりデータサイエンティストの存在が意味を持つ。」

 日経 XTECH/日経ものづくり 2019.09.30 より

 以前、IoT/AI活用のフィージビリティースタディーを行ったことがあります。対象はプリント基板製造の品質改善でした。工場が抱えていた問題は、日々の品質管理をしっかりやっているにも関わらず、年に数回大きな品質問題が起きているといった内容でした。

 ものづくりエンジニアでデータサイエンティストの手をほとんど借りることなく数万データを取り扱って、製造品質の異常予兆の検知に取り組みました。データ活用の流れは、データ診断、収集、統合、分析、運用といった手順で行いました。

 データ診断:データ診断は2つの作業があります。1つは現状で工場がどのようなデータを持っているかを調べるデータの棚卸と、もう1つが問題となっている事象の要因は何かを知見者が分析することです。この要因の分析では特性要因図を使って、想定される要因をできるだけ多く抽出した上で、現場のベテラン技術者や有識者の意見を聞きながら、各要因に重要性の優先度をつけていきました。

 データ収集:品質の異常予兆検知を行うには、AIによるデータ分析で学習に用いる加工条件、状態データとそれに対応した加工結果のデータが必要となります。加工条件、状態データには加工結果との相関性がある項目が含まれていることや、データ分析を行うための十分なデータ量があることが求められます。そのため、データ棚卸や要因分析を行った結果、データの項目数やサンプル数が不足していた場合には新たにデータを収集する必要があります。

 データ統合:収集したデータは、そのままの状態では分析することができません。これを分析にかけられるようにデータを統合します。具体的には、個別データのフォーマットを統一し、欠損データなどをクレンジングします。そして製造ロットとデータの紐付けを行います。データ活用のプロセスの中で最も厄介な作業です。

 データ分析:統合された過去データを学習させ異常予兆の予測モデルを作成します。このモデルに製造中の各工程の状態をインプットすると加工結果を予想します。一般にデータ分析は専門のデータサイエンティストに依頼しますが、F社の「ものづくり現場の人自身が使うデータ分析ツールDA Navi」を使用しました。F社によると「データ分析経験の少ないものづくりの現場の人自身が、設備稼働率の向上や製品歩留りの改善のためのデータ分析を実施でき、さらにものづくりに有益な知見を得られます。」といったツールです。

 データ運用:分析結果の活用方法を検討しこれを取り入れた現場の運用の仕組みを作り上げる必要があります。

①過去1年分のデータ(加工条件+加工結果)を学習データとして収集し、予測モデルを作成する。予測モデルは、月に1度、要因分析に基づき新規に作成する。

②直近1日分の加工条件を予測モデルで分析し、加工結果を予測する。

③加工結果の予測値が管理値を逸脱した場合、これを異常予兆として判断し、警告を出す。併せて加工条件のどの項目がその要因であるかを提示する。

④ ③の提示内容に基づき、加工条件のチューニングを行う。

 以上の一連の活動をマネージメントすることが、ものづくりデータサイエンティストに必要な能力だと思います。

参考資料

https://www.fujitsu.com/jp/solutions/business-technology/intelligent-data-services/ba/product/operational-data-management-and-analytics/da-navi/

SHIMAMURA ENGINEERING OFFICE

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