191多関節ロボット
組立工場の自動化に使用される代表的なロボットには、直行型,スカラー型、多関節型があります。3次元の空間作業をする場合には、6自由度を持った多関節型が必要となります。ここでは、多関節ロボットの構造について機械設計者の視点で記載します。
生産技術部門の自動化設備の設計担当であったころ、構造が違う2種類の多関節ロボットを設計した経験があります。多関節ロボットとは、旋回3軸、揺動3軸から構成され、ロボット据付面から1番近い軸をθ1(旋回)、2番目をθ2(揺動)、3番目をθ3(揺動)といって空間XYZの位置が決まります。さらに4番目をθ4(旋回)、5番目をθ5(揺動)、6番目をθ6(回転)といって空間αβγの姿勢が決まります。各軸の基本要素はモーター、エンコーダー、ハーモニックドライブ®(減速機)です。ロボット設計するに当り、モジュールタイプとユニットタイプの2つがあります。
モジュールタイプは、基本要素のモーター、エンコーダー、ハーモニックドライブ®を一つのモジュールとしてθ1~θ6まで積み重ねた構造になります。モーターから出力までに余分な動力伝達機構が無いのが特徴です。
ユニットタイプは、θ1~θ3を第1アーム、θ4~θ6を第2アームのユニットとして第1アームに第2アームを取り付ける構造になります。駆動源となるモーター、エンコーダーをユニットの固定側に配置し、従動側となるハーモニックドライブ®との間には動力伝達機構があります。
この2つのタイプについて、下記の機械設計の視点で比較してみます。
<設計難易度>モジュールタイプは、各軸の3要素がモジュールとなっているので、構造がシンプルとなり、設計難易度は高くありません。しかしながら、各軸までの動力用の電源線やエンコーダーからの信号線の配回しが厄介となります。特にロボット本体に配線を収納しようとするとどうしてもロボット自身が大きくなってしまいます。一方ユニットタイプは、モーターからハーモニックドライブ®までの伝達機構の設計が大変となります。伝達機構にはシャフトとギアが必要となります。特にギアとギアのバックラシュをなくすため、ばねによる与圧機構を考える必要があり、設計難易度は高くなります。
<動特性>モジュールタイプは、ロボット先端が大きく重くなる傾向があるため、高速化に向いていません。また、θ4~θ6は配線が邪魔をして回転領域が広くとることができませんでした。しかし、余分な伝達系がないため、制御のしやすさはよかったと思います。ユニットタイプはロボットの先端が軽くなる様に重量配分の設計ができたおかげで高速化が可能となりました。また、配線の邪魔がないため、θ4、θ6は360度以上の回転領域がありました。伝達系があるためバックラッシュを取り除く与圧の調整を適切に行わないとイナーシャの変動が大きくなり制御性がよくなくなってしまいます。
<繰り返し精度>両タイプとも最終段にハーモニックドライブ®を使用しているため、大きな違いはなかったと記憶しています。
自動組立の権威でSCARAロボットの産みの親ある牧野先生の著書の中に「機械を高速化するには」といった下記の記載があります。
よく聞かれる質問に「機械を高速化するにはどうすればいいでしょうか」というのがある。エアシリンダをやめてカム駆動に換えるとか、サーボモータ―で動いている装置なら制御の形を変えるとか手段はいろいろある。しかし、それ以上に利くのは機械の構造そのものを高速向きに設計することである。高速向きの機械構造とはどのようなものか…それは「ガッチリとスッキリ」という言葉になる。~中略~ 動かす側(駆動部、カム機構の例でいえばカムより前)はなるべくガッチリと、そして動かされる側(従動部、カム機構の例でいえばカムより後)はなるべくスッキリと作る。…それが「ガッチリとスッキリ」である。
「ガッチリとスッキリ」といった点ではユニットタイプがそれにあたると思います。
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