189タイヤ業界(その3)

 日経ものづくりの2020年9月号の特集の中に「S社が世界発のCNF配合タイヤ N製紙やMケミカルと連携」といった記事があります。ここでその一部を取り上げ、自らの経験と見解を記載したいと思います。

<記事の抜粋>

 CNF※配合タイヤが誕生したのは、製造技術の改良によるところが大きい。タイヤ製造のS社のみならず、CNFの供給元であるN製紙と、中間材料を製造するMケミカルの協力で実現した。~中略~

 N製紙がnmサイズまでほぐしたCNFを供給し、MケミカルがCNFとゴムを混ぜた中間材料である「ウェット・マスター・バッチ」(WMB)を製造。S社が最終製品用のゴム材料と混ぜて加工し、タイヤとして仕上げている。

 ※CNF:セルロースナノファイバー:植物の細胞壁内に存在し、直径が数nm、長さ数百nmほどで繊維状の物質。引っ張り強さは3GPaと鉄の5倍あるが、密度は1.5g/cm3と鉄の1/5にすぎない。樹脂やゴムの補強材として使えば、完成品の強度を高めたり、軽くしたりできると期待されている。

日経ものづくり2020年9月号より

<経験と見解>

 学生時代に自動車部のメンバーとして、ラリー競技やダートトライアル競技に出場していたことがあります。競技に勝つためには、ドライビングテクニックを磨くことも大切ですが、安く購入したノーマル車の足回りを如何に強化し、いかに軽量化するかといったことを考え、日々改造をすることも大切です。特に、バネ下の荷重となるホイールやタイヤの軽量化は路面の追従性に効果があり、かつ交換も簡単なので最初に取り組む改造でした。しかし学生にとってラリータイヤや軽量アルミホイールは高嶺の花であり、せいぜいスチールホイールのキャップを外すぐらいでした。

 記事の中には「2019年12月に発売した低燃費タイヤの旗艦モデル「エナセーブ NEXT III」のサイドウオール(側壁)に配合した。従来はゴム中のCNFの分散に課題があったが、製造技術を高めてCNFの塊を排除し、均一に混ぜ込んで量産にこぎ着けた。」とあります。一方で「課題はコスト。」ともあります。良いものと解っていても、一般ユーザにとって高嶺の花ではビジネスになりません。ここからが生産技術の出番です。

 一般的に、生産技術では、4M(Man、Machine、Material、Method)の視点で工程のバラツキを管理して、目標の製造原価を達成させる必要があります。そのため、各工程の管理項目のデータを詳細に採り、バラツキ発生の原因の仮説をいくつか立て、その仮説が正しいか正しくないかをひとつずつ分析していきます。分析ツールとしては、回帰分析、AI分析のほか周波数解析など様々あります。設備関連の仮説の場合は設備(Machine)が持っている固有値(剛性、モータ―回転数、伝達系、ポンプ)が影響している場合が高いので、周波数解析が有効だと思います。周期性がない場合には、回帰分析、AI分析を行います。ここでの課題は高い品質のデータ取得になると思います。

 インターネットの情報によるとS社では、2008年下期よりモデル工場のタイヤ生産工程(混合、材料成形、加硫工程)で品質向上をテーマに、AI・IOTプラットフォームを使った製造条件と品質の相関性の解析を開始しています。データの一元化、ビッグデータ解析やAIの活用により、データ収集、解析時間の90%短縮や生産時に発生する仕損の30%低減といった効果が検証できています。データの統合にはThingWorx、データ解析にはLumadaを導入しています。すなわち、IOT、AIを活用した品質改善の運用のベースができています。CNF配合タイヤの場合も、説明変数、目的変数とも品質の高いデータがそろっていればAI分析のステップに移行できると思います。

参考資料

https://monoist.atmarkit.co.jp/mn/articles/1910/04/news052.html

https://monoist.atmarkit.co.jp/mn/articles/2001/29/news017.html

https://iotnews.jp/archives/134519

SHIMAMURA ENGINEERING OFFICE

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