188新興国は低コスト、先進国はQoL

 日経ものづくりの2019年8月号の特集「世界の最新スマート工場」の中に「新興国は低コスト、先進国はQoL」といった記事があります。ここでその一部を取り上げ、自らの経験と見解を記載したいと思います。

<記事の抜粋>

 自動化の進展は、人件費比率の低下を意味する。自動化ラインはどの国に置いても人件費の面では運用コストがあまり変わらない。つまり、新興国で開発した自動化ラインを先進国に“逆展開”しても全くおかしくない。むしろ、作業者の能力の高さを前提としない分、新興国で開発するラインの方が自動化を徹底できる。UMCエレクトロニクスのように、もはや「マザー工場は中国」と割り切る企業も現れた。~中略~

 欧州の先進国はワークライフバランス、すなわち仕事と私生活のバランスを改善し、生活の質を高める考えQoL(Quality of Life)が工場にも反映している。

 組み立て自動化などの工場を物理的に改善する技術は、もはや先進国と新興国とで差はない。作業者のノウハウの蓄積、データの蓄積、そのデータを分析するノウハウの蓄積は、先進国に一日の長があるとみられる。ノウハウや作業者の差は、文化の差といってもよく、世界各地の工場はそれぞれ文化の特質を生かして先へ進み、他の地域の工場を引っ張る、という役割分担が進んでいきそうだ。

 日経ものづくり2019年8月号より

<経験と見解>

 自動化、IoT/AIを製造工場に展開する際、手始めに国内の製造工場をモデル工場と位置付けし、そこで得たスキル、ノウハウを海外(新興国)のグループ工場へ展開するのが一般的です。しかし上記の抜粋記事にあるように、国内と新興国では大きな環境の違いがあります。特に作業者については、離職に伴う人の入れ替わりが激しく、それに十分対応できるシステムと教育が必要となります。当然言葉の壁もあります。逆に新興国でできれば、国内展開はスムースに行われると考えられます。

 以前、プリント基板製造工場を対象としてIoT/AIを活用した品質改善のフィージビリティースタディーを新興国のベトナムで行ったことがあります。以下は取り組み内容です。

①過去1年分のデータ(加工条件+加工結果)を学習データとして収集し、予測モデルを作成する。予測モデルは、月に1度、要因分析に基づき新規に作成する。

②直近1日分の加工条件を予測モデルで分析し、加工結果を予測する。

③加工結果の予測値が管理値を逸脱した場合、これを異常予兆として判断し、警告を出す。併せて加工条件のどの項目がその要因であるかを提示する。

④ ③の提示内容に基づき、加工条件のチューニングを行う。チューニングでは、基準値からのオフセット量の調整とバラツキを抑える作業を行う。実測値が管理値の上限から下限の範囲に収まっている場合でも、適正値に近づける試みを行う。

 上記の運用サイクルを実行するために最も大切なことは、導入側の運用体制の構築です。新興国の工場は役割分担の影響により、強固な縦割り社会が形成されています。たとえば、製造部門や製造技術のメンバーは工場の情報システムや設備についてはわからない。情報システムや設備から見るとその逆です。また、各部門の上司と担当間のギャップについても同じことが言えます。上記の導入教育においては、製造技術のメンバーと情報システムのメンバーに対して、ワークショップを交えながら2週間ほどかけて行いました。また上司には目的、重要性と効果について教育していきました。

 今後、国内外でスマート工場を展開するに当り、一つは作業者のスキルに依存しない様に自動化を推進する必要があります。一方、IoT/AIを推進する中で、工場の縦割り体制を是正していくことも大切だと思います。

SHIMAMURA ENGINEERING OFFICE

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