186 4Mのコントロール
「製造工程ではばらつきが発生するのが実情です。バラツキの原因は4M(Man:人、 Machine:機械、Material:材料や前工程からの仕掛品、Method:製造方法)が主であると言われています。すなわち4Mのコントロールに失敗すると、当初に計画したQCDを達成することが難しくなります。そこでねらいの品質を、QCDを成立させながら商品化する技術が生産技術なのです。」日刊工業新聞社発行「トコトンやさしい生産技術の本」坂倉 貢司著より。以下に、過去に経験した4Mに関係するバラツキについて記載します。
<Man:人>
まだ、生産技術部門の担当エンジニアであったころ、ロボットの導入先でティーチング作業を頻繁に行った経験があります。組立ロボットの基本である部品の挿入のティーチングでした。最初はどんなに慎重にティーチングしても、プレイバック時に100%近くの信頼性で部品を挿入することはできませんでした。原因はティーチングに部品サンプルを使い、そのサンプルが持っていた誤差を含めてティーチングしていたためです。以降、ティーチング治具と称して誤差のない専用部品を作成してティーチングをしました。さらに挿入の余裕度を測るため、±X方向、±Y方向に0.1㎜程度わざとティーチングデータをずらして挿入できるかを確認しました。
<Machine:機械>
同じく、生産技術部門の担当者であったころ、プリンターの不具合を調査する機会がありました。小型レーザプリンターのサンプル画像において、何本かの筋ができてしまうといった不具合でした。当時のサンプル画像はベンツのフロントガラスであり、あたかも雨が降ったように数本の筋が、フロントガラスの上についていました。これがプリンターの品質において良くないことは言うまでもなく、早急に原因を調査して対策する必要がありました。
プリンターの機構は感光ドラム、転写ドラム、定着ローラ、ピックローラといった回転体を数個のパルスモータで駆動させますが、駆動力を伝達させるために、多くのギア列を構成する必要があります。プリントは一定の速度で行われるので、ギアを含めた回転体には周期性が伴います。(周期的特性)
雨が降ったような筋ができるのは、dot間隔が一定でないと生じる現象です。周波数特性を持った様々な波が合成波となって、一定ではないdot間隔の画像を作り出します。逆に、この画像結果を使ってフーリエ変換することで、どの周期の部品が原因であるかがわかります。このdot間隔を読み取る装置は世の中にあり、同時に合成波を検出しフーリエ変換します。その結果、伝達系のあるギアが原因であることを突き止めることができました。そのギア精度を高めることで、解決できたと記憶しています。
<Material:材料や前工程からの仕掛品>
以前、ハードディスクドライブの自動組立ラインを開発したことがあります。その中の設備の一つである自動ネジ締め機の場合、当初100回に1回程度どうしてもネジが着座しないエラーが発生していました。事前の自動ネジ締機の評価では、そのようなエラーは発生していませんでした。原因がわからないまま、ネジ締めの位置の調整やトルク調整を繰り返し行いましたが、一向に改善されませんでした。
そこでネジ自体に問題がないか調査しました。ネジが着座していない不良サンプルを樹脂で固め、断面が見えるように削り、工具顕微鏡で観察してみました。結果、おネジの山の先端が2つに割れていることが分かりました(ツインピークス)。めネジがおネジの正しい谷に入らないで、この割れ目に噛み込んで着座できなかったことが判明しました。
このツインピークスは転造ネジ特有の現象です。転造ダイスで成型する過程でネジ山が2つから1つへと変化しますが、転造量が少ないと2つ割れの状態のままネジとなります。人間がネジ締めを行う場合には、着座する前に硬くなると、当たり前のごとく1回ネジを緩め、再度締め直すといった工夫をしています。以降ネジ締機のシーケンスに、着座前にトルクアップしたら、巻き戻し、再度ネジ締めといったリトライ機能を追加しました。
<Method:製造方法>
数年前、プリント基板製造における品質改善の取り組みとして、製造データを活用して異常予兆を検出するといったAI分析のフィージビリティースタディーを行いました。AI分析は、最初に過去の製造の条件データ(説明変数)と製造の結果データ(目的変数)を使って機械学習し、予測モデルを作成します。
ここで対象になった製造の結果データは、プリント基板の断面を目視で観察してメッキの出来具合を10段階にレベ分けしたものでした(最終検査工程)。プリント基板の一部を切り出し、透明な接着剤で固め、観察する断面まで研削し、その断面を工具顕微鏡で観察するといったプロセスです。フィージビリティースタディーを進める中で見えてきたのが、切り出しプロセスにおいて、メッキに大きな負荷がかかり亀裂が入る可能性があるといった点でした。すぐに、切り出し位置と観察断面位置の距離を離し、負荷がかからないように切り出しました。断面までの研削量は増えますが、正しいデータを取得するため必要な処置です。
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