184検査と不良品
「自動化ラインでの生産においては確実に連続で自動運転できることが不可欠となる。前工程の材料品質のバラつき、部品寸法のバラつき、加工・組立条件のバラつき、設備の繰り返し精度等々、安定した連続生産を行うにはバラつきは理由にならない。バラつきは工程内不良、チョコ停頻発、設備故障を引き起こし生産性の阻害要因となる。」「バラつきの要因が特定できない場合、設備が原因か材料が原因かで揉めることになる。したがって4Mそれぞれのバラつきを抑制するよう事前検証を行い想定される原因を追究し具体的な対策にもとづき工程設計に反映させることが自動化ラインの基本となる。」
といった東海大学 村山省己氏の記事をブログ№147で取り上げ、材料の不具合、バラツキについて経験した事例を掲載しました。ここでは、不良を判定する検査設備について記載します。
入社当初ロボットアームの設計をしていました。垂直多関節ロボット(仮称:M6)でモーター、エンコーダー、ハーモニックドライブを1つのモジュールとして、回転軸と揺動軸を組み合わせて6自由度をもっていました。最大の特徴は、当時の垂直多関節ロボットとしては高精度であることでした。(繰り返し精度:±0.03㎜) 試作機ができると早速評価です。
この精度評価が実に厄介でした。その1つが評価システムの構築です。その当時は6自由度どころか3自由度でさえ、同時に測定できる計測器はありませんでした。また、精度測定したデータを収集するツール、分析するグラフ、表計算ソフトもありませんでした。
XYZの同時計測は非接触で計測できるPSD(Position Sensor Device)を使用しました。PSDから出力されるアナログ信号をデジタルに変換するADコンバーター、ロボットと同期させデータを自動収集するためにPIA(Peripheral Interface Adaptor)を使用しました。また、収集されたデータは、自動的にシーケンシャルファイルに格納させるシステムを構築しました。さらに、データをみえる形にするため、ヒストグラムに表示するツールを合わせて作成しました。システム作成言語はBasicでした。
以上でロボットの精度を自動で計測するための準備ができました。実際の計測は高さ700㎜、縦横1,000×1,000㎜の角パイプの筐体の上に、厚さ20㎜、縦横1,000×1,000㎜のアルミ製の天板の4隅をねじで締結したテーブルに、被測定物のロボットと先のPSDを取り付けてロボットの繰り返しを測定しました。測定は21:00~9:00で無人で行いました。
繰り返し精度の結果は±0.03㎜を大きく外れる数値となっていました。繰り返し精度は、ロボット単体の一定方向からの位置決めのバラツキを示しますが、時間と伴に位置がずれてしまう所謂ドリフト現象が発生してしまいました。厄介なことに原因はすぐにはわかりませんでした。
結局、原因は測定環境の変化(室温の変化)にありました。ロボットとPSDを取り付けていたテーブルが、ねじで締結されているアルミ天板と鉄パイプの筐体の熱膨張の違いで歪んだためです。(ポテトチップスのようなアンジュレーション)ねじを全部緩めた状態で測定し、ドリフト問題は解決しました。
以上は、ロボットの繰り返し精度自体の問題ではなく、それを検査する系の問題です。
数年前、プリント基板製造における品質改善の取り組みとして、製造データを活用して異常予兆を検出するといったAI分析のフィージビリティースタディーを行いました。AI分析は、最初に過去の製造の条件データ(説明変数)と製造の結果データ(目的変数)を使って機械学習し、予測モデルを作成します。
ここで対象になった製造の結果データは、プリント基板の断面を目視で観察してメッキの出来具合を10段階にレベ分けしたものでした(最終検査工程)。プリント基板の一部を切り出し、透明な接着剤で固め、観察する断面まで研削し、その断面を工具顕微鏡で観察するといったプロセスです。フィージビリティースタディーを進める中で見えてきたのが、切り出しプロセスにおいて、メッキに大きな負荷がかかり亀裂が入る可能性がある(バラツキが発生する)といった点でした。すぐに、切り出し位置と観察断面位置の距離を離し、負荷がかからないように切り出しました。断面までの研削量は増えますが、正しいデータを取得するため必要な処置です。
以上も検査の信頼性(バラツキ)の問題です。検査工程では不良は不良、良品は良品と最終判断する重要な役割があります。不良の排出はあってはいけません。良品を不良にすると製造工程内の歩留まりが低下し、ビジネスに大きな影響を与えてしまいます。
0コメント