047ゲンコツロボットの位置決め精度
過去に、水平多関節ロボット、垂直多関節ロボット、直交ロボットなどいろいろな組立ロボットを設計してきましたが、パラレルリンクロボットの設計の経験はありません。このロボットと従来のロボットとの違いについて考えてみました。
現在、パラレルリンクロボットは食品、医療の仕分け現場で活躍しているのをよく見かけます。2つの大きな特徴があると思います。1つは高速動作であり、1つは高精度位置決めです。ファナックではこのパラレルリンクロボットをゲンコツロボットと呼び、商品化しています。ゲンコツロボットはXYZ移動にパラレルリンク機構、αβγの姿勢にシリアルリンク機構を採用しています。αβγの姿勢が人間の手首から先の動作に類似しているため(ゲンコツを握ってぐるぐる手首を回す様)、このように呼ばれているといわれています。
以前からある6自由度のロボットは、通常は垂直多関節ロボットとよばれて、ロボットの固定側からアーム先端に向かって、θ1~θ6軸機構がシリアルに構成されています。その結果、θ1~θ6までの各関節における位置決め誤差が積算され、最終的なロボット先端での位置決め誤差は大きくなってしまいます。また、内蔵されるモーター、減速機、伝達機構類がアームの可動部に搭載されるため、アーム質量が大きくなり、高速化の妨げになっていました。
ゲンコツロボットの場合は、θ1~θ3に相当する機構がパラレルリンクで構成され、XYZの位置決めは3つのリンクの合成動作から生まれます。可動部は3本のリンクのみで、モーター、減速機といった重量物はすべて固定側に配置されています。そのため、各軸の誤差は積算されず、高精度位置決めを実現し、可動部の加速特性も優れています。
高精度位置決めの中でも特に、相対位置決め精度に優れていると思います。位置決め精度には大きく3つの区分けがあります。繰り返し位置決め精度、絶対位置決め精度、相対位置決め精度です。繰り返し位置決め精度は、同じ方向から同じ速度で移動してきて、繰り返し同じ位置にばらつきなく静止できるかの性能です。絶対位置決め精度は、絶対座標に対する位置決めの性能で、3次元測定器などに用いられるロボットに必要とされる性能です。相対位置決め精度は、任意の座標系の中で位置を保証するもので、パレタイジング作業に必要な性能です。
限られた品種の製造であれば、同じものを繰り返し作るため、作業が単純なシーケンスとなり、ティーチングプレイバックロボットの繰り返し精度だけで、十分対応ができました。多品種少量生産の場合、製造ライン上の部品、ワークが頻繁に変わり、ティーチングプレイバックでは対応できなくなります。すなわち、任意の位置への位置決め性能が求められるようになるため、相対位置精度に優れるゲンコツロボットが必要となます。長年、一緒にロボット開発してきた同僚が、初めてゲンコツロボットを操作した時の感想は、「相対位置決め精度が非常にいい。通常の多関節ロボットの場合、0.1㎜ 0.2㎜は簡単にずれるところ0.05㎜レベルの精度が出せる」でした。
ファナックは何故この素晴らしい特性を前面に出してアピールしないのだろうか。と常々思っています。
参考資料
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jrsj/30/2/30_2_154/_pdf
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