046富山の薬売り
50年代、60年代のお話で恐縮ですが、当時全国の家庭には、風邪薬、胃腸薬、赤チン、ガーゼ、体温計など病気やケガの際に使う薬や備品が、小さな木製の引き出しが付いた箱の中にありました。その箱は目につき易い様に、たんすの上に置かれていました。年に1、2回、薬屋が、各家庭を訪問して、使った分だけ補充していきました。薬を補充していくだけでなく、玄関先にちょこんと座り、家人と5,6分談笑していきます。お母さん方は、使った分だけの支払いをします。小さな子供がいれば、必ず紙風船をプレゼントしてくれました。
島根のパソコン工場を見学した時、製造ラインの脇に自動販売機のような物がありました。定期的に作業者がその中から小さなボトルを取り出し、製造ラインの設備の脇に置いてある空のボトルと交換していました。何をやっているのか尋ねてみると、「ボトルの中身は接着剤で、プリント板に実装した部品を固定するために使います。ボトルの中の接着剤がなくなると、作業者があの自動販売機のようなストッカーから1本もってきて交換するのです。あのストッカーと接着剤はベンダーさんの物で、私たちの製造現場に設置し、使用した分だけ補充してくれます。私たちは使用した分だけ支払いすればいいのです。」この方式をVMI(Vendor Managed Inventory)というそうです。
工場側から見ると、ベンダーに対して時として有償で商品を置く場所を提供して、かつ在庫を持たないといった大きな利点があります。多品種変量生産が進んでいるパソコン組立工場の大きなテーマの1つに、部品在庫、中間在庫、製品在庫を減らすかといったものがあります。倉庫などはもってのほかである、といった考え方が浸透しています。VMIは理にかなった方式であると思います。
であれば、すべての購入品をVMI方式にすればよいはずですが、実際にやっているのは、この接着剤のボトルだけです。なぜでしょうか。ベンダー側から見たら、賃料を払ってストッカーを設置し、ものがなくなったかどうかを常時管理しなければなりません。これらの負担を上回る効果が見込まなければ、実行できないと思います。現行のパソコンの工場では、接着剤ベンダーのみがこの条件を満たしていたのか、満たすように何等かの施策の下にやっていたはずです。
富山の薬売りの場合はどうでしょうか。薬を補充して薬代を徴収するだけでは、儲かるとは思えません。実は、玄関にちょこんと座って、家人と談笑するといった事が1番大事な事なのかも知れません。「隣町の知り合いに子供ができた。○○さんの息子さんが怪我をした」などの情報を得ることはできていたのではないでしょうか。
VMIを進めるに当り、同様にベンダーへ価値ある情報を提供することが、成功の鍵ではないでしょうか。
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