513位置合わせと適応制御
「組立では、組み合わせるべき2つの部品の相対的な位置が一致するということ、すなわち位置合わせ精度が重要であって、個々の部品の絶対的な位置、すなわち位置決め精度は必要ではないのである。」~中略~
「ここで必要なのが適応制御である。芯ずれ要因の総和を±0.5mmとしたとき、これを±0.01mmまで縮めることが必要であり、この動作を適応制御というのである。人間の場合には目で見たり、手で触ったりして感覚を用いて位置合わせを行う。ロボットでも視覚や触覚を用いてフィードバックすることができる。」
「しかし、もっとも簡単な方法としてワークに面取りをつけ、ツールがその反力で柔らかく動くようにして修正する方法もある。これをコンプライアンス法と言っている。これらの方法を用いるのならば、高い位置決め精度は不要となるのである。」
以上は、SCARAロボットの産みの親である牧野先生の著書から一部を抜粋しました。
まだ携帯電話が普及する前、固定電話の新規加入や入れ換えが発生すると、電話局側で配線ケーブルの接続や切断をマニュアル作業で行っていました。山奥や離れ小島の無人局の場合、本局から作業者が出向いて工事をするため、2~3日新規加入者らを待たせることになっていました。このマニュアルでの配線作業を自動化するシステムを開発したことがあります。本局からのリモート制御でロボットが完全自動で配線します。結果、作業時間は3分となりました。自動MDFとして全国で1,000システムほど稼働しています。
ロボットで行う場合、配線ケーブルの代わりにマトリックスボードと接続ピンを使います。縦100mm×横200mm程度のマトリクスボードの分離スル―ホールに対してφ1mm×長さ10mm程度の接続ピンをロボットが挿入抜去することで配線します。狭い局舎内にマトリックスボードを沢山敷き詰めるため、マトリックスボードを数百枚取り付けるフレームは縦置きで2列になっています。XYZθロボットがその縦置き2列のフレームに挟まれる格好に設置され、θ軸(反転機構)を使って両フレームのマトリックスボードにアクセスします。このXYZθロボットには接続ピンを把持する4つ爪とマトリックスボードの位置を検出するレーザーセンサーが搭載されています。
ここでは、接続ピンの挿入機構について言及します。接続ピンの主な機能は二つあります。一つは、マトリックスボードの層間を接続するコネクティング機能で、バネ性を持った金属部品でできています。もう一つは、この金属部品を保持する機能です。先端が面取りされた樹脂製の爪楊枝を短くしたような形状のもので、ロボットが直接把持します。
一方、このピンを挿入する機構は、4つ爪、それを開閉する小型電磁シリンダからなる把持機構と、ピン挿入時の反力で把持機構の重量をキャンセルするフロート機構でされていました。フロート機構はコイルスプリングを複数使ってXYZ方向をフローティングしていました。
当初の予定では、ピンを把持したまま、フロート状態でピンをスル―ホールの形状に倣わせて挿入する予定でした。フロート機構は把持機構の重量をキャンセルすることはできましたが、倣い動作時にピンの何百倍もの慣性力が発生し、それが原因でピンが折れてしまいました。
結局、挿入時にピンの面取り部がスル―ホールに入った時点で、4つ爪を開きピンのお尻を押すといったシーケンスに変更しました。結果、4つ爪の拘束がなくなり、ピン自体がスル―ホールに倣って入っていきました。量産機ではフロート機構を削除しました。
以上、適応制御の実施例でした。
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