508ものづくり技術者と情報技術者
自動組立の世界的な権威である牧野先生の著書「裏返しのメニュー」の中に「機械設計のベテラン」といったタイトルがあり、下記の通り記述されています。
(かつて)会社には機械設計のベテランと言われる人たちが何人か居て終日図板に向かって製図していたものである。この人たちの描く図面は、それは見事なもので、たとえば乾電池組立機械の構想組立図といったものが、三日ほどの間にみるみる仕上がっていくのである。夕方書き始めたはずの図が、次の朝行ってみると線で一杯に埋まっている。
~中略~ 昔、図面を書いていた人は、平均的に言えば工業高校卒であったのに、いまは大学卒である。設計のように経験を必要とする職種で、4年のハンディキャップのあることは大きい。
~中略~ 大学に機械工学科や精密工学科の部屋の中には大型計算機の端末やら、グラフィックディスプレイやら、マイコンやらで一杯なのである。その中で学生は朝から晩までキーボードを叩いて、ソフトウェア作りに一所懸命なのだ。~中略~ そのことがいけないとは言わない。それはもちろん、必要だからそうしているのであろう。けれども、もし全部の人がそうなってしまったとしたら…‥これはゆゆしき一大事である。なぜなら、機械屋にキーボードは叩けるかも知れないけれども、ソフト屋に機械の図面は描けないからである。
以上、抜粋です。これは現在の製造におけるデータ活用の分野でもおなじことが言えると思います。
ものづくりの現場において、サイバーフィジカルの考えの下に、デジタルツインといったデータを活用した製造のQCD改善が始まっています。ものづくりには製品開発、生産準備や部品の調達、製造そして出荷といった大きな流れがあります。製造以外で収集されるデータの多くは、人が作ったデータです。設計値、部品数、供給数、出荷数などです。それはデジタルデータです。サイバーとフィジカルが一致すると思います。
一方、製造に関係しては部品寸法、温度、圧力、電流、振動、照度などの物理データです。それは、さまざまな環境の影響で誤差を含んだアナログデータとなることを理解しておく必要があります。サイバーとフィジカルが一致しません。製造現場では、誤差または誤差に伴う4Mのバラツキを如何に小さくするかといった取り組みを行わないと、デジタルツインを使うことができないと思います。
以前ティーチングプレイバックロボットを開発していた時、並行してロボットシミュレーターも開発していました。シミュレーターの開発担当が「シミュレーターのロボットはちゃんと組立作業ができるのに、そのシミュレーターのデータを使って実際のロボットを動かすと組立作業ができないのは、実際のロボットが良くないからだ。」と言っていたことがあります。もちろんこれは間違いです。シミュレーションをする際に、すべての物理現象(ノイジーで誤差だらけの世界)を考慮していないからいけないのです。
製造にかかわる物理現象を全てサイバー化するまでには、まだまだ時間がかかると思います。そしてそれができるのは、ロジック中心の世界で育った情報技術者ではなく、ノイジーで誤差だらけの世界を経験してきたものづくり技術者でないとできないと思います。
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