507ライン設計から要素設計まで

 自動組立の世界的権威の牧野先生の著書「シーバス・リーガル・ロボット」の中に「東京タワー」といった記事があります。

 東京タワーは流麗な曲線美をなして空にそびえている。あのカーブはどのようにして決まったかご存じであろうか。これは建設の設計をやっている兄から聞いた話である。東京タワーの形を決める時、東大で構造計算を25年もやっている先生にお願いした。すると彼は鉛筆で白い紙にフリーハンドでカーブを描き、「まあ、こんなもんだな」といった。そのデータをコンピュータにいれて計算したらピタリと合った、というのである。

 そもそも、構造設計というものは、形の決まった建物に対して柱の太さや、コンクリートの中に入れる鉄筋の数などを計算することをいう。これには、ただ単に建物自身や中味の重さだけでなく、自身や風などの影響も考えて計算しなければならない。高層建築物などになるとこの計算はかなり複雑であり、有限要素法などを用いて大型のコンピュータで解かなければならない。これには専門の知識を必要とするので、建築の仕事はデザインをする設計者と構造設計をする設計者とが分かれている。デザインの仕事は計算の結果をある程度予測して行われる。その時に必要なのは経験とカンである。「まあこんなもんだな」という感覚である。

 機械の設計も同じことで、機械の主軸の太さ、板の厚さ、締結ボルトの数などは単に強度だけから決めることはできないのである。剛性やら、振動の影響やらも考えなければならないのである。「まあこんなもんだな」といって決めた寸法が、後から計算してみたら最適だったというのが理想である。こうした経験やカンを機械設計者はもっと大事にしなければならない。

 以上、技術調査会発行「シーバスリーガル」牧野洋著より抜粋

 超音速の飛行機のポンチ絵をかくと、大方の人は先がとがって、何やらジェットエンジンらしきものを描くと思います。これは、実際の超音速飛行機の写真や動画を過去に見たことがあるからそのように描くことが出来るのだと思います。パソコンやスマホなどの工業製品やお菓子などの食品を作る製造ラインも同じです。過去に工場見学などで製造ラインを見たり、テレビ放送で見たりして、製造設備が整然と並び、作業者が仕事をしている経験からラインのイメージを絵にすることが出来ます。その経験が多ければ多いほど精度の良いイメージ図となります。

 経験者であれば製造ラインの設計は単位時間当たりの生産量、供給する部品数量と手順がわかれば、大枠のポンチ絵を描くことが出来ます。生産量に見合った工程の数、工程間の搬送の仕方、人の作業と設備の作業などを仮決めします。

 次に各工程、搬送の設計です。決められた時間内に完了するかを検証します。各工程の作業内容を詳細に分割し、分割した作業1つ1つにかかる時間を見積もります。または時間内に収まるように時間を分配します。

 次に各工程で使われるツール、治具、設備の設計です。工程設計で分配された時間内で作業が完了するような仕掛けを考えます。これを製造に関わる要素設計と言います。たとえば、ネジ締め、位置決め、搬送、供給、成型などの要素があります。

 以上の説明では時間制約に基づいての設計ですが、並行してサイズ、信頼性についても検証していきます。そして、要素設計がどうしても成り立たない場合は、工程設計を見直します。工程設計がどうしても成り立たたない場合は、ライン設計を見直します。試行錯誤を繰り返すことで全体最適なラインが設計されます。

 経験者であればあるほど、試行錯誤が少なくなります。「まあこんなもんだな」といって描いた製造ラインのポンチ絵が、後から計算してみたら最適だったというのが理想です。

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