365 QCD改善の取り組み(品質)

 ものづくりの普遍のテーマはQCD+ES(品質・コスト・供給+環境・安全)の改善であることは周知の事実です。ただ、その定義についてはあいまいの場合が多いと思います。QCDの改善とはものづくりの現場の努力で、ものづくり側、提供される側の両者がうれしい取り組みです。一方ESの改善の多くは行政、業界からの要請により取り組まなければならないテーマ(CO2削減や防火対策など)です。両者にとって直接的、短期的にはうれしい取り組みではないと思います。

 さらに、ここではQCDの改善についてそれぞれについて次の様に定義します。

 Qの改善:ものづくりの過程(製造工程)内において、製造の安定化を図り不良を削減する取り組み。最終製品の歩留りの改善。

 Cの改善:部品、材料、労働力、エネルギーの調達コストを如何に抑えるかの取り組み。

 Dの改善:品質やコストを維持し、市場が要求する物量を如何に提供するかの取り組み。

実際にはQCDの適切な改善の組み合わせにより、トータルの改善効果をねらいます。今回は品質改善について過去の事例を記載します。

<自動化によるハードディスクドライブ製造の品質改善>

 90年代後半の話になります。ハードディスクドライブの自動組立ラインを開発して、フィリピン、タイの工場へ導入した経験があります。当初まわりの人達から、「人件費がかからない東南アジアで自動化の必要性があるのか」といった声がよく聞かれました。最終組立工程において、自動化を進めても人を削減することは難しいものです。組立を行うオペレータが減ったとしても、自動化設備ロボットをチューニングし、メンテナンスし、機種変更に対応する技術者が逆に必要となります。目的は人件費の削減ではありませんでした。

最終組立工程の自動化の本来の必要性は品質改善です。ハードディスクドライブの組立環境(クリーン度)が年々厳しくなってきていました。製造工程内のコンタミ、発塵による品質不良を削減するため、自動化が必要です。人が部品に触ればコンタミの原因となり、人が動けば発塵します。コロナウィルスに似ています。自動組立ラインの基本構成は①組立パレット ②フリーフローコンベア ③パーツ供給 ④組立ロボット ⑤エンドエフェクタ となります。 

この「自動組立ライン」では、工程間の移動、各工程の作業を自動で行います。人は各工程の部品の整列と供給を行いますが、自動組立ラインとは完全に分離されています。以上の構成で、クラス20のクリーン度を実現することができました。ラインのタクトタイムは20秒で従来のマニュアルラインと同じレベルです。

あらためて思うことは、人にはできないことは自動化せざるを得ません。スピード、精度、環境(クリーン、放射能、高温、高所など)、24時間稼働など 将来の姿を見通して、早めの検討が必要です。

<データ活用によるプリント基板製造の品質改善>

 以前、プリント基板製造工場へ異常予兆検知のAIシステムを導入するため、フィージビリティースタディーをしたことがあります。工場が抱えていた問題は、日々の品質管理をしっかりやっているにも関わらず、年に1回程度大きな品質問題が起きているといった内容でした。

 製造ラインは数十工程におよびます。各工程の管理項目(温度、圧力、電流など)はマニュアルレベルですが見える化がされています。基準値に対するオフセット、バラツキはリアルタイムにチューニングしていますが、工程間をまたぐ、多因子にかかわる問題であると人手では対応できないとのことです。AI技術で不良が出る前に予兆が見えるように、どうにかならないかといった依頼でした。

 データ活用の流れは、データ診断、収集、統合、分析、運用といった手順となります。重要なのはデータの診断です。データ診断は2つの作業があります。1つは現状で工場がどのようなデータを持っているかを調べるデータの棚卸と、もう1つが問題となっている事象の要因は何かを知見者が分析することです。(要因分析は特性要因図やFMEAといったツールを使うと便利です)

 このフィージビリティースタディーでは、知見者による要因分析で必要とされていたデータが十分にそろっていなかったため、実運用ができるまでの異常予兆精度を確保することができませんでした。現場では引き続き、データリッチ化に向けてデータの収集に取り組んでいます。

SHIMAMURA ENGINEERING OFFICE

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