341日華工業商会とTPS(続き)
60年代の話で恐縮です。当時、父親が日華工業商会という小さな紙管工場を浜松で経営していました。浜松はその昔綿花の栽培が盛んで、浴衣を代表とする綿織物産業が発達していました。織物は40㎝ほどの幅で管状の紙の芯にくるくると巻き付けられています。デパートの着物売り場で目にすることができると思います。この管状の紙の芯を紙管と呼びます。トイレットペーパーの芯も紙管です。
この会社は従業員10名足らずの零細企業ですが、お馴染みさんの需要が継続してあり、経営者は変わりましたが、現在も紙管を製造、販売しています。
子供のころ学校から帰ると毎日といっていいほど、会社の配達の車に便乗していました。工場で紙管を積み込み、お客さんの会社に行っては車から紙管を下ろす作業を、従業員のお兄さんと一緒にやっていました。配達は朝と夕の2回、2トントラックで紙管を山積みして10件ほどのお客さん回りをしていました。ただ、K社だけ専用便として朝・昼・夕の決まった時刻に決まった場所へ紙管を配達しないといけませんでした。2トントラックに積まれている紙管はひとかかえ程度の量でした。子供ながら違和感を持っていました。ある日、父親が、「K社はトヨタ系列のお客さんなのでやむを得ないのだ」と言っていたことを、今でも覚えています。今はその意味がよく分かります。
K社はトヨタの車の座席シートを製造しており、そのシートを巻き取る紙管をジャストインタイムで納入させていたのです。当然、紙管を保管する倉庫はなく、そのまま製造ラインに投入されるものだと思います。
一方、日華工業商会はどうかというと、毎日不足なくお得意様に紙管を届けるため、多くの在庫を持ちそれを保管する倉庫もあります。また、材料の原紙の仕入れに関しても製紙業者から月数回10トントラックで運び込まれます。それを保管する倉庫もあります。日華工業商会の3/4は材料と製品の倉庫です。
零細企業の日華工業商会がお客さんにモノ申せば、取引がなくなるかもしれません。
零細企業の日華工業商会が業者さんに小分けで搬入してくれと言っても断られます。
生産技術者としてTPS活動を推進している一方で、頭の片隅には常に日華工業商会があります。
<続き>
先日、久方ぶりに日華工業商会を訪問しました。既に経営自体は大手紙管関連会社に引き継がれていていましたが、工場そのものは以前と大きく変わっていませんでした。以前より織物関係のお客さんは減っていましたが、現状のコロナ禍であってもトヨタ系列のK社の需要は安定しているとのことです。逆にK社は零細企業の日華工業商会を必要としているということです。
紙管の製造は全て機械によるものであり、価格以外では差別化は難しいビジネスです。K社に納入している紙管は通常の紙管にシートが巻取りやすいように1枚ペラ紙を貼り付けています。これは機械ではできないため、人手作業となります。少量生産と言うこともあって大手同業他社は引き受けないサービスです。
大手企業は自動化による低価格のサービスが強みであり、零細企業は人手作業によるひと手間加えたサービスが強みです。
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