330自動化推進と生産技術

 1982年当時は、組立ロボットを商品として扱うメーカーは少なく、電機産業分野では各社の生産技術部門がSCARAタイプ(水平多関節ロボット)を中心とした技術開発を行っていました。一方、当時所属していた生産技術部門では、SCARAタイプより2自由度多い6自由度構造の垂直多関節ロボット(仮称M6)を開発しておりました。2自由度を付け加えることで、より複雑な組立作業への対応が可能となるといった特徴があります。

 開発を始めて2年後には、ティーチングプレイバック方式によるシステムが完成、実用化のフェーズに達しました。残念ながら社内への導入例は数えるほどでしたが、晴海で行われたFA展に出展中のM6を見たバレーボールで有名なA社から引き合いがあり、導入とあわせてエンジニアリングを手がけることになりました。

バレーボールは12枚の革の中にチューブがあり、その製造方法は次のとおりです。

・成型面が半球状になった下型と上型の内面に革を並べる(型には真空吸着機構がある)

・下型に球状チューブをいれ上型を重ね加熱加圧を行う

・革には接着剤が塗布されているため、1分程で革がチューブ全面に貼り付く

・型から取り出し完成となる 

 以前は作業者が加熱ヒータのそばで大きなレンチで力いっぱいねじ締め加圧をしなければならず、夏場は汗まみれになりながら塩をなめながら作業をしていたそうです。

 A社の設備部隊は、この劣悪な作業の改善と品質安定化のため、油圧による自動加圧機構の開発に着手、型の内面に革を自動で並べる手段としてM6を採用してくれました。製品品質に大きく影響する革を並べる作業は、斜め移動ができ高精度位置決めが要求されるため、M6の特徴となっている機能性能を十分引き出すことができ、数年で100台程度を提供するまでに至りました。

 ただその反面、エンジニアリングでは大変苦労した覚えがあります。その最大の原因はティーチング作業でした。M6の場合、ティーチングペンダントを使ってロボットを操作し、作業位置を1点ごと教示します。バレーボールの場合50ポイント以上を教示することになりますが、自由度の多さが教示のあだとなり、丸一日仕事となっていました。さらに大変なのは、教示中に操作を誤り、ロボットを衝突させてしまうと、機構にズレが発生し、そこまで作成したティーチングデータが使い物にならなくなって、はじめからやり直しになることでした。この作業はA社の設備部隊でも行っており、機種変更時には大変苦労されたと思います。

 こういった苦労の中で、A社がロボットを運用し続けることができたのは、自動化せざるを得ない環境にあったことはもちろん、コンペチタであるB社の台頭も大きかったと思います。短期間に力をつけてきていたB社は技術的にはA社と同等レベルでした。A社社長の危機感はかなりなものであり、製品の差別化はもちろん、製造面の差別化優位化についても厳しく取組み、結果、自動化の牽引力につながったと思います。

 このことは我々が自動化、ロボット化を推進するにあたり、大きな意味を持ちます。ただ単にQCDの改善のためでは弱すぎるのであって、自動化せざるを得ない環境(境遇)にいかに持ち込むか、常に危機感を持ち差別化優位化を意識させるか、が推進の重要ポイントであると思います。

SHIMAMURA ENGINEERING OFFICE

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