271 IoTとイナーシャ2版
製造業の分野において、最近IoT技術について関心が高まってきています。製造品質の安定化を図る目的で、製造工程の温度、圧力、位置決めといった物理量をデジタル計測して、リアルタイムに製造システム、設備にフィードバックしたいといったニーズです。
特に、製造リードタイムが長いプロセス系工場においては、各工程で物理量を調整しても、その結果がわかるのが数日後、数週間後といったケースはまれではありません。結果が芳しくないと、その期間に製造した製品は全てよくないことになってしまいます。この場合さらに、IoTでリアルタイムに状態を監視し、そのデータを使ってAIで結果を予想し、その予想に基づいてフィードバックするといった仕掛けが必要となります。
しかしながら、リアルタイムにデータを扱い、サンプリングレートを上げても、制御される側がちゃんと応答しないと、元来の目的を達成することはできないことになります。この課題に関連する過去のブログ記事の抜粋を以下に掲載します。
<028イナーシャの変動は3倍まで>
ロボットはメカだけでは動かすことはできません。この機構にパワーを与えて、動きを制御する技術が必要です。それを実行するのがエレキエンジニアです。そしてメカエンジニアとエレキエンジニアの責任分担の指標が動力学のイナーシャ(静力学の質量に当たるもの)です。そのイナーシャの変動の割合が3倍以内であれば、制御で対応するというものです。すなわち、振動も発振もなくスムースにロボットが動くように制御ができるという目標数値がある時期から明確に設定されました。
垂直多関節ロボットは、構造上、姿勢が大きく変わります。それに伴いイナーシャが変わります。出力軸側のイナーシャは減速比の2乗分の1となることを考慮したとしても、モーター直結分のイナーシャとバランスを取りながら、部品の軽量化を進めることは、かなり大変なものでした。(変動を3倍以内にするため)
<102自動組立設備の設計(その1) 機械を高速化するための原則>
よく聞かれる質問に「機械を高速化するにはどうすればいいでしょうか」というのがある。エアシリンダをやめてカム駆動に換えるとか、サーボモータ―で動いている装置なら制御の形を変えるとか手段はいろいろある。しかし、それ以上に利くのは機械の構造そのものを高速向きに設計することである。高速向きの機械構造とはどのようなものか…それは「ガッチリとスッキリ」という言葉になる。~中略~ 動かす側(駆動部、カム機構の例でいえばカムより前)はなるべくガッチリと、そして動かされる側(従動部、カム機構の例でいえばカムより後)はなるべくスッキリと作る。…それが「ガッチリとスッキリ」である。(牧野先生の著書から)
<158電気炉の容量>
「それは君、電気炉の直径を大きくすればいいんじゃないの。」「え、先生、どうしてそんなことが分かるんですか。(電気炉の設計もしたこともないくせに。)」「そりゃあそうさ。電気炉の径を大きくして壁を厚くする。これは回転体で言えば慣性モーメントを大きくするのと同じことで、電気炉の温度を一定に保つことには効果がある。窓をあけたぐらいでは響かないようになる。その代わり、温度の上げ下げはやりにくくなるから、大きな電力を与えないと急速加熱・急速冷却はできない。」(牧野先生の著書から)
~中略~大型旅客機とジェット戦闘機も同じことが言えると思います。安定飛行が求められるのであれば大きくして慣性を増やし、急旋回が必要な場合は慣性を減らす必要があります。
サンプリングレートを上げて、イナーシャを小さくして制御性を高めることも必要です。また、場合よっては、イナーシャを増して外乱に強い安定性をねらうことも必要だとおもいます。
<ブログ№124の追記>
ある工場のSMTラインのリフロー工程において、リフロー炉のカバーの上にジャケットをかぶせていました。いかにリフロー炉の温度を一定に保とうとしているがよくわかる例です。多品種に左右されない所はイナーシャ(この場合熱容量)を増すといった工夫がされています。
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