254ティーチングレスに向けて
かつてプロービングシステムに垂直多関節のロボットを適用したことがあります。そのロボットは吊り下げタイプでした。対象は大型計算機のプリント基板で、数種類の導通検査を自動で行うシステムでした。大型のプリント基板を検査するため、ワークエリアが広く、ロボットを設備のトップフレームから吊り下げました。ロボットは複数のプローブを自動交換しながら、目標とするプリント基板の試験パッドへアクセスすることができました。併せてプローブについているケーブル類も吊り下げ式にしたおかげで、ティーチングなどの操作性も向上したことを記憶しています。ここでのロボットのアクセスは垂直方向です。
そのティーチングでは大変苦労した覚えがあります。ティーチングペンダントを使ってロボットを操作し、作業位置を1点ごと教示します。複数のプローブの自動交換を含め数十ポイントを教示することになりますが、自由度の多さが教示のあだとなり、丸一日仕事となっていました。さらに大変なのは、ティーチング中に操作を誤り、ロボットを衝突させてしまうと、機構にズレが発生し、そこまで作成したティーチングデータが使い物にならなくなって、はじめからやり直しになることでした。
ロボットの機構にズレが発生しているので、キャリブレーションが必要となります。キャリブレーションとは、機構が持っている固有の座標系を絶対座標系に較正する作業です。ロボットの各軸の原点が理想とする絶対原点と何度ずれているかを測定し、そのズレ量をパラメータとしてロボットにインプットし、ロボットの位置、姿勢を正します。このキャリブレーション作業は2時間ほどかかります。
多品種少量生産に対応するロボットの場合、ツールを自動交換(ATC)しながら複数の作業をこなす必要があります。ティーチングポイントも製品の機種に応じて数百程度が必要となります。これを上記のようなティーチング方式ではいつまでたっても終わりません。多機能組立システムでは以下の技術が使われています。
ロボットシミュレーション技術:最近のロボットメーカーからは、必ずロボットシミュレータが提供されます。シミュレーション上で全ての動作のシーケンスをプログラムしておくことができます。ダイレクトティーチングにおける操作ミスによる回りの環境との衝突がなくなります。当然、実機が無くてもプログラミングできる点は設備立ち上げ時の効率化をはじめ、効果が大きい技術です。
カメラによる視覚認識技術:ロボットシミュレータによるプログラミングと実機とはズレが生じます。代表的なものが、位置ズレです。この位置ズレをキャンセルする機能がカメラによる視覚認識です。多機能組立システムでは、ロボットが把持したパーツの位置、姿勢と、ワークの組み付け位置、姿勢をそれぞれカメラで読み取り、位置ズレを補償するようにロボットを制御します。
衝撃緩衝と負荷センシング技術:パーツやツールを取ったり、置いたりする場合、ワーク側に押し付ける必要があります。一定の力で押し付ける場合、力をセンシングする機能が必要となります。力のセンシングには一般的に歪ゲージを使った力覚センサーを使用しますが、ロボットを動かして徐々に力をセンシングする際は、一定のストロークが必要となります。そこで、多機能組立システムのロボットのエンドエフェクタには、バネを使った緩衝機構を搭載しています。バネのストロークを使って、押し付けの衝撃を緩和しながら徐々に力を上げることでます。バネの縮み量をセンシングして一定の押し付け力を検出します。一方向の押し付け力のセンシングであれば、この方法を使うことで十分です。(力覚センサーを使う必要がありません)
以上、3つの技術開発により、実機によるダイレクトティーチング作業は大幅に軽減されました。
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