248振動と熱(その3)

 プロセス系の工場では製造品質を安定させるため、製造の各工程において温度、圧力、濃度などの管理値が決められた基準値の範囲に収まる様に、常時監視、チューニングを行っています。バラツキ幅を小さくするチューニングを施すか、オフセットをターゲットに近づけるようにチューニングするかでも、品質は変わってくると思います。しかし、バラツキ幅に周期性がある場合や、オフセットが時間と伴にずれていくドリフト現象がある場合は、その原因を突き止めて対策する必要があります。その根本原因の多くは設備が持つ固有の振動や熱による線膨張です。

 過去に2回ブログ№161、199でその事例を紹介しました。同じく、振動と熱に関するロケットエンジンの問題が、日経ものづくり11月号に掲載されていました。下記にその記事の抜粋を掲載します。

 LE-9エンジン燃焼室の損傷に液体水素ターボポンプのタービン破損―。宇宙航空研究開発機構(JAXA)は2020年9月18日、「H3」ロケット初号機打ち上げ延期に関してオンラインで記者会見を開き、新開発のLE-9エンジンに発生したトラブルの詳細を説明した。~中略~ LE-9エンジンは、H3ロケットの第1段用にJAXAが開発している大型液体ロケットエンジンだ。トラブルは、2020年5月26日に種子島宇宙センターのテストスタンドで実施した燃焼試験で発生した。エンジン燃焼室の壁面と液体水素ターボポンプのタービンの羽根に亀裂が見つかった。~中略~

 エンジン燃焼室の壁面の内側には液体水素を流して冷却するための溝が訳500本掘り込んである。この冷却溝が走っている部分の壁面は溝を掘り込んだ分、薄くなっている。この部分に14か所の亀裂が発生していた。~中略~

 後日、エンジンを分解検査したところ、液体水素ターボポンプのタービンの羽根にも亀裂が見つかった。LE-9液体水素ターボポンプのタービンは2段式で、2枚の動翼を持つ。このうち2段目ディスクの円周に並ぶ76枚の羽根(ブレード)のうち2枚に亀裂が発生していた。

 独立した2つのトラブルが発生:JAXAの調査によって、この2つのトラブルはそれぞれ無関係の独立したトラブルと分かってきた。

 燃焼室壁面の亀裂は、厳しい条件下で事前に想定以上に壁面が高温になったのが原因だった。冷却溝がある部分の壁面は厚さが0.7mmしかない。この部分の温度が上昇して熱膨張で膨らむ。膨らんで燃焼室内に飛び出した部分にさらに熱負荷がかかり、温度が上昇して壁面が溶けてついに亀裂による開口が発生した。

 もう一方の液体水素ターボポンプタービンの亀裂は、事前の解析では問題を起こさないと想定していた共振が想定以上に大きくなった結果だった。ロケットエンジンのターボンポンプは運転時にさまざまな振動にさらされる。振動周波数と、力学的には片持ち梁となるタービン羽根が共振を起こすと、タービン羽根に金属疲労が蓄積して、最終的に亀裂が発生する。

 以上が記事の抜粋です。振動と熱は色々な分野の共通問題であることが分かります。

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