200腕時計と潤滑材

 20年間ほど使用していた腕時計を半年前に紛失してしまいました。しばらくの間スマホを時計代わりにしていましたが、それを見かねた妻が、コンサル事務所開業祝いと、ブログ記事200回を祝って腕時計をプレゼントしてくれると言ってくれました。早速近くのデパートへ行って最近の腕時計をいろいろと手にし、店員に機能、性能、価格についてお話してもらいました。

 腕時計は大きく3つに分類できます。クオーツ式、機械式、スプリングドライブ式です。クオーツ式、機械式は馴染みのあるものでしたが、スプリングドライブ式は初めてでした。この方式は、機械式と同様にゼンマイを手で巻きますが、そのゼンマイの動力を一旦電気に変換し、水晶発振器と制御ICを駆動させるもので、クオーツ式、機械式の合の子です。電池が要らないクオーツです。スプリングドライブ式は少々値が張りますが、プレゼントしてもらいました。

 気に入った腕時計が決まった後、妻が店員に「時計にとって、時計は常に動いていた方がいいのか、あまり動かさない方がいいのか」と気の利いた質問をしました。店員は「時計は機械です。歯車やシャフトのような機械部品には潤滑オイルが塗布されていて、常時動かすことでなじみます。動かさないでいるとオイルが固まり精度に影響します。」と答えてくれました。この話を聞いて、潤滑オイルを多くも少なくもなく適正に機械部品に塗布する技術がそこにはあるのだと感心しつつ、以前潤滑で苦労したロボット機構のことを思い出しました。

 ロボットの関節を開発していた時のことです。6自由度垂直多関節ロボット(6関節をθ1~θ6と呼びます)の先端側のθ5とθ6を一体化するケーシングを設計しました。鋳物の外観は塗装を施し、内側はθ5、θ6各機械要素(モーター、ハーモニックドライブ、エンコーダ)を取り付けるため、加工仕上げしました。θ5とθ6は鋳物で隔壁を作り分離させました。θ5のハーモニックドライブを潤滑するオイルが漏れないように、摺動部にはパッキンで封をしました。(ちなみに、θ6の潤滑はグリスでした) さて、ロボットが組み上がり、ランニングしている時でした。どういうわけかθ6の内部がθ5の潤滑オイルにまみれていました。

 原因は、θ5の潤滑オイルが、鋳物の隔壁内部にある巣を伝ってきたことが分かりました。鋳物の巣は、液状のアルミが気泡を含んだまま固まってできます。巣が単独で存在する場合は問題ありませんが、気泡がつながってしまうと、通り道ができ、そこをオイルが伝わってしまいます。結局、鋳肌面に接着剤をしみこませ、対応したことがあります。

 同じくロボットの関節モジュールを設計する際に、表面粗さで失敗したことがあります。ロボット関節のなかには減速機としてハーモニックドライブが組み込まれています。この減速機を潤滑するオイルが外へ漏れないように、回転摺動部にゴム製パッキンを取り付ける必要がありました。外形寸法φ100㎜ほどの円筒部分にパッキンをはめ込み、オイル漏れを防止しようとしました。円筒部分の表面粗さは▽3つにしました。結果、オイルは見事に漏れてしまいました。

 円筒面の仕上げを旋盤で行うため、軸方向へのバイトの送りが入ります。この送りによって円筒面に螺旋状の跡が形成され、オイルがその螺旋に沿って、パッキンの外へ出て行ってしまったのです。どんなにきれいに表面を削っても、螺旋ができた時点でアウトになります。

 同様なロボットの関節を設計していた先輩の図面を見ると、同じく▽3つでしたが、「突っ切りバイト使用のこと。軸方向の送り厳禁」との注記がありました。「なんで教えてくれなかったのですか?」「だってパッキンの取説に書いてあったよ!」

SHIMAMURA ENGINEERING OFFICE

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