169ものづくり工房(その2)

 東京の都心の一等地。1,200㎡の敷地面積に、ものづくり工房を立ち上げるプロジェクトを引き受けたことがあります。当時、米国では3Dプリンタ、レーザプリンタ、CNCといったデジタルデータを用いて、素人でも簡単に造形、加工ができるツールと作業スペースを提供する会員制のものづくり工房が各地で立ち上がっていました。対象者はDIYに興味がある人や、メーカーズといった人達でした。泉のように湧いてくるアイデアを、簡単に形にできるツールや場所を提供するものづくり工房は、大きなブームになっていました。このプロジェクトでは、米国の有名なものづくり工房のフランチャイズを日本で最初に立ち上げるものでした。ブログ№049ではこの工房の立ち上げについて記述しました。ここでは、実際のものづくりの事例について記述します。

 動画を制作する会社から、この工房をテーマにした動画を作成したいとの依頼がありました。工房が立ち上がってまだ間もない時期であり、宣伝効果がかなり見込まれるとの考えもあり、快く引き受けました。動画のストーリーは、あるグラス作家の作品を模して製作するもので、一連の作業内容をドキュメンタリーにするといった内容でした。

 その作品は「パンティーグラス」と題されたもので、下着を付けた女性の背中から腰のラインをかたどったブランディ―グラスでした。通常のグラスと違い回転対象ではなく、温かみのあるなめらかな曲線を特徴としていました。工房で作るに当り選定された材料は木の角材でした。使用した設備は3Dスキャナー、ターニングマシーン、真空成型機、レーザーカッターでした。

 まず、3Dスキャナーでグラスの3Dデータを採ります。グラスをスキャナーの回転テーブルに置きます。スキャナーからレーザーをグラスに照射します。レーザー光が当ったグラスには表面をなでるように上から下へ1本の赤い線が引かれます。(透明なグラスは事前に白いパウダースプレーを吹きかけレーザーの反射光が見えるように下準備をしておきます)。続いて、スキャナー内蔵の3Dカメラで赤い線を撮影し距離を計測します。計測が終わると、回転テーブルが微小角度回転し、同様なプロセスを繰り返します。360度回転し終わると、グラスの3D計測が完了しデータ化されます。以上の作業は全自動で行われます。

 3Dスキャナーで作成されたデータを、ターニングマシーンにインプットします。木の角材をターニングマシーンの主軸についている4つ爪チャックで把持します。スタートすると事前にプログラミングしておいた手順で加工が始まります。主軸の回転とともに角材が回転します。外形加工は丸ノコ、内形加工はドリルで行います。このターニングマシーンと通常のターニングマシーン(自動旋盤)との大きな違いは、回転対象でない工作物であっても、加工できる点です。当時国内には数台しかなかったと記憶しています。

 ターニングマシーンで作られた木製のグラスを型として、真空成型機で下着を製作します。(ちなみに、この真空成型機は卵パックやお祭りで売られているお面のような製品ができます)。木製のグラスを逆さにして真空成型機のテーブルに置きます。スタートすると、上部から熱で温められ柔らかくなった白い樹脂シートが降りてきて、木製のグラスを包みます。続いて、真空ポンプでグラスを包んでいるシート内の空気を抜きます。シートが木製のグラスに密着します。この状態で真空成型機から取り出し、木製グラスの型の腰の部分を残しシートを切り除きます。ここまでで、下着を付けた木製の「パンティーグラス」ができました。

 仕上げです。赤いアクリル板からレーザーカッターで小さな蝶々のリボンを切り抜きます。それを、おへその近くの下着に貼り付けて完成です。

 後日、無事YouTubeから放映されました。

SHIMAMURA ENGINEERING OFFICE

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