166見えないロス
コストを下げる手段の一つとして、ものづくりの各フェーズで発生するロスをつぶしていくといった取り組みが日々行われています。ロスには見えるロス、見えないロスがあります。大塚泰雄氏の著書「トコトンやさしい原価管理の本」の中に“見えないロスに目をつける”といったタイトルで下記の記載があります。
目に見えるロスよりも、見えないロスのほうがコストダウン余地は大きいことが多いのです。見えないロスとは、測ってみないとわからない見つけることが難しい上級のロスをいいます。
たとえば材料費では、製品の機能上必要でない品質余裕の取りすぎによる過剰機能や過剰品質の過剰品質ロスがそうです。これは製品設計や工程設計で、お客様の要求以上の機能を付加してしまうことです。一見、製品や工程を見ただけではわかりません。その他にも、材料の公差や重量の誤差による歩留低下による製造歩留ロスがあります。液体や型ものの製品については、出荷時の重量の平均値が基準値より公差の範囲内でオーバーしても、良品として出荷されてしまいます。特に材料費が高い材料を使用している製品は注意が必要です。~中略~
これらのロスをみえるようにすれば、誰でも自然とそこに目が向くようになります。見えないものは測ってみると見えるようになります。ここに、大きなコストダウン効果を出す宝が潜んでいます。
以上の記載内容に対して思い当たる事例を下記に記載します。
以前、はめあい用の穴と挿入部品の表面処理に、電気ニッケルメッキ処理を行ったことがあります。この処理の一般的なばらつきは±0.02mm程度あります。はめあい公差が±0.025mmあったとしても、加工に残された許容公差は単純計算で±0.005mmとなり、旋盤加工では非常に難易度が高いものになります。
当時、工場からこの件について確認の連絡がありました。「この公差ではベテランが加工しても成功するのは3回に1回程度です。時間と工数が3倍かかる場合がありますが、それでもいいですか」といった内容でした。技術サイドで検討した結果を次の通り工場サイドへ伝えました。「処理を電気ニッケルメッキから無電解ニッケルメッキ(化成処理)へ変更してください。無電解の場合、処理費用は高くなりますが、バラツキが±0.005mmに抑えられます。」
過去に電話局に納める大型の設備を開発した経験があります。部品点数は3,000点以上であったと記憶しています。プロト機の費用は、顧客の要求価格の3倍を超えていました。これを3日間の合宿でコストダウンするため、生産技術、製造技術、製造、調達部門が集まりました。場所は会社の保養所でした。朝の8時から夜の12時まで部品図、組立図を1枚ずつ見ながらコストダウンのアイデアを抽出していきました。夕食以降は、少々アルコールの力も借りていたことを覚えています。
「この部品は本当に必要ですか?」「この処理は本当に必要ですか?」「本当にこの加工が必要ですか?」「こんなに精度が必要ですか?」「標準部品で代替できませんか?」「別の処理に換えることはできませんか?」「共通化できませんか?」「一体化できませんか?」「削りではなく板金化できませんか?」など設計者にとっては非常にきつい質問ばかりです。何しろ部品点数を1/3に抑えれば、目標は達成するのだからと、調達のメンバーは執拗にまで部品点数の削減にこだわっていました。
以上からも、設備のチョコ停によるロスの改善や、作業者、設備の手待ちのロスのような見えるロスの改善が何割のレベルに対して、見えないロス(特にものづくりの上流に潜んでいるロス)は2倍3倍の効果があることが分かります。
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