032アナリシスとシンセシス

 アナリシスとシンセシスについて、ご存じでしょうか。日本語では分析と総合という言葉で表現されます。機械設計技術者にとっては、非常に興味深い言葉だと思います。「精密機械設計便覧」の最初の章に設計学というのがあります。この中で理学と工学の位置づけについて、記載があります。「工学と理学を峻別するのは、理学が事物を分析して理解することをその目的とするのに対して、工学は逆に既知の事物を総合して新しい事物を作り出すことを目的とするという点である。分析と総合という互いに逆の手続きが、両者を特徴付けている。したがって、それぞれの価値観はまったく異なる。」とあります。アナリシスとシンセシスを一般例で説明した内容だと思います。(分析の意味は理解しやすいと思いますが、総合についてはピンとこないと思います)

 例えば、6自由度の多関節ロボットが、あるポジションで静止しているとします。このロボット先端の位置、姿勢(XYZαβγ)が分かっていた場合、各関節の角度がいかなるものかを分析することがアナリシスです。一方、先端の位置、姿勢のみが分かっている、さて、これを実現するためにはどうしたものかを創造する必要があります。直交ロボットにするか、SCARAロボットにするか、垂直多関節ロボットにするか、7自由度のロボットにするか、方法は無限にあります。使用目的、経済性、技術・技能といった既知の事物を総合判断して、作り上げていきます。これがシンセシスではないでしょうか。

 例えば、古代のエジプトのピラミッド、法隆寺の五重の塔、すでに当時の設計図面がないもの、または、美術品の様にもともと図面がないものに対して、耐震強度はどの程度であるかを分析することはアナリシスです。耐震性に優れた高層ビル、タワーを実現するために、どのような構造にすればよいのかを既知の事物を総合して作り上げるのがシンセシスではないでしょうか。同じ耐震基準でも、構想ビル、タワーの構造は設計者により違ってきます。

 設計者や技術者は、シンセシスとアナリシスの両方の技量が必要となります。要求される仕様、条件の下で数多くの構造図、アイデアを考えます。この時点では詳細な技術的な裏付けはありません。続いて、構想が実現できるかを分析します。分析結果で、できないとの判断が出た場合、その原因を調べ、新規開発技術をもって解決していきます。どうしても物理的に成り立たない場合には、2番目に気に入った構想図で試します。したがって、構想図は多ければ多い方がいいと思います。

 ある日、理学部出身の後輩が、机上に散らばっている構想図を見て「先輩はさぞかし小さいときは図画工作がお得意だったでしょうね」と声をかけてきました。以来、自分の専門は理学系でも工学系でもなく図画工作系ということにしています。

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