375固有振動数

 現在のように携帯電話が普及する前、固定電話の基地局には電話線を配線する設備がありました。新規の電話加入があると電話線を増設したり、電話番号の変更があると配線を入れ換えたりを、人手作業で行っていました。(旧電電公社) これをロボット技術で自動化する大規模なプロジェクトに参画したことがあります。

 従来は、人手によるラッピング作業で結線していましたが、自動化に伴い、複数のマトリックスボードと接続ピンを使った結線方法が新たに導入されました。ロボットでマトリックスボードの接続穴へ接続ピンを挿入したり、接続穴から接続ピンを抜去したりして配線を行います。このシステムは最終的に、全国の無人の局舎へ1,000台以上導入されました。

 このロボットによるシステムは、マトリックスボードを取り付ける大型の枠と、搬送用の機構の上にXYZθ軸からなる機構で構成されています。開発段階において、プロトタイプの設備を試作し、機能、性能、信頼性、耐環境性、コストについて評価を行いました。

 ここでは、固有振動数についてお話します。上記システムの構造物の骨組みは100×100mmの角パイプを主体とした高さ2m、長さは長いもので4m、幅は0.5m程度した。その骨組みに数百枚のマトリックスボード、それらをつなげるケーブル類とXYZθ軸からなるロボット機構が搭載され大きいもので1,000㎏程度の質量があったと思います。

 全国の局舎に導入するに当り、最も重要な要求条件の1つが耐震強度でした。設計の初期段階では、有限要素法による構造解析を当時の大型コンピュータで行いました。骨組みに使われた角パイプのヤング率、質量、構造などを基準に、マトリックスボードのほかの搭載物は質点としてモデルを組みました。主モードの固有振動数は2Hz程度であったと記憶しています。これが耐震強度に十分な値であるのかはその時点では判断できません。

 続いて、試作機を製作して評価を行いました。最初に構造体の各所をインパクトハンマーでたたき、各所の固有振動数を測定しました。測定は骨組みだけの時と搭載物がある状態で測定しました。これもまた耐震強度に十分な値であるのかはその時点では判断できません。

 続いて、環境試験です。環境試験センターにある大型振動試験装置に試作機を設置して、実際に振動させます。実際の地震で想定される振幅、周波数をパラメータとして加振させます。1つの振幅に対して周波数をスイープします。スイープは数Hz間隔で加振させていきます。加振時間は各周波数で1分程度だったと思います。加振された周波数と構造体の固有振動数が一致すると共振が発生します。スイープするにつれて共振箇所が変わっていく様子がよくわかります。

 インパクトハンマーの測定結果と環境試験の結果から、構造体の弱い箇所がわかるので設計を見直し補強します。補強結果が有効であるかは補強前と後のシミュレーション結果で判断します。シミュレーション→試作機測定評価→シミュレーションといった一連の流れで開発が行われました。

 ご存じの通り、試作機の作成と評価には莫大な工数がかかりますが、同様な設備または相似の設備を開発する際には、この試作機の試験データを反映したシミュレーションモデルを使うことで試作機の作成と測定評価を省くことが出来ると思います。

SHIMAMURA ENGINEERING OFFICE

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