357ものづくりの基礎(強度と剛性)

 日経ものづくり2021/4号に「ものづくりの基礎が危ない」といったタイトルで次のような記事が掲載されています。

 ものづくりに関する技術者の基礎的スキルや知識の低下は、危機的なレベルになっている。そう考える技術者が多いことが日経ものづくりの実施したアンケートで明らかになった。~中略~ 世界市場での厳しい競争を勝ち抜くため、ほぼ全ての製造業が低コスト化や開発期間の短縮といった効率化に取り組んできた。価値を生み出さないムダな作業を、標準化や共通化、デジタル技術の活用によって極力減らしていこうという取り組みである。しかし、こうした取り組みは技術者の基礎力低下を招く懸念がある。

 以上 日経ものづくり2021/4号抜粋

 さらに記事は次の10のキーワードを取り上げ、解説しています。「ポンチ絵」「デザインレビュー」「モジュラーデザイン」「生産管理システム」「受注生産と計画生産」「安全在庫」「パレート図」「強度と剛性」「焼き入れ・焼き戻し」「工程能力指数」。ここでは、「強度と剛性」にまつわる過去の経験について記述します。ちなみに、強度とは、力を加えたとき、折れや破断などによって元に戻らなくなるまでにどれだけの力に耐えるかの性質。剛性とは、力を加えたときに変形量がどれだけ少ないかの性質。です。

 強度も剛性も部材単体だけの話ではありません。機械の構造物、機構などのように部材を組み合わせた後のトータルの強度や剛性が重要となります。ロボットアームの機構設計において与圧といった技術によって剛性を上げることをよく行います。

<回転軸受けの与圧>

 垂直多関節ロボットの回転部分に要求される最も重要な条件の1つに、剛性があります。剛性とはバネ定数のことであり、剛性が高ければ頑丈になります。垂直多関節ロボットの関節は、上下左右斜めのあらゆる姿勢の中で、ガタなく安定して動作することが要求されます。

 回転部分を支持する機械要素の1つとして、ボールベアリングがあります。ボールベアリングにも、軸方向の力を受けるスラストベアリング、ラジアル方向の力を受ける深溝ボールベアリング、モーメント力を受けるアンギュラベアリングなどがあります。ロボットの関節は全方向の力を受けなければならないので、通常は深溝ボールベアリングとアンギュラベアリングの組み合わせで構成します。スラスト力に関しては、アンギュラベアリングに適正な与圧を与えることで受けることができます。

 問題はこの与圧の調整です。ボールベアリングは基本的にガタがあります。このガタを取り除くために、ボールの軌道であるアウターレースとインナーレースでボールに圧力をかけること(押さえ込むこと)でガタを取り、剛性を上げることができます。

 このガタの取り方として、定位置与圧と定圧与圧の2種類があり、組立時に指示をしなければなりません。定位置与圧の場合、ガタの量を事前に計測して、ガタ+αのシム(薄い板)をアウターレースまたはインナーレースの側面に挟み込んで与圧を与えます。一方、定圧与圧の場合アウターレース、インナーレースを固定するねじのトルクを管理することになります。

<減速機構の与圧>

 一般的なギア列においては、動力伝達をスムースに行うため、ギアとギアのかみ合いにバックラッシュというガタを持っています。しかし、ロボットをはじめとして自動化の設備の場合、逆方向へ移動する機構がほとんどで、このガタが位置決め精度に影響することがあります。そこで、このガタを低減するため、ばね等でギアとギアのピッチ間に与圧を与えます。

 回転軸受け、減速機構も与圧を与えることにより、トータルの剛性は大きくなりますが、摺動する部分の摩耗も大きくなります。摩耗の強度を大きくするために、熱処理(焼き入れ)が必要になります。機械設計をするにあたり、強度と剛性はセットで考えることが大切だと思います。

SHIMAMURA ENGINEERING OFFICE

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