301ブラックボックス

 自動組立の世界的権威の牧野先生の著書「裏返しのメニュー」の中に「ブラックボックス」といったタイトルで次の様な記事があります。

 「機械屋というのはブラックボックスという観念がないからいかんのだ」と、いつか吉田鐐一氏が言っていた。彼は制御屋である。「どういう入力を入れたらどういう出力が出るかがわかればいいので、その途中はどうでもいい。それを知ろうとするから時間を浪費する。」中身のわからない箱……、これをブラックボックスという。しかし、何を入れたら何が出てくるかはわかっている。その仕組みがどうなっているかは問題ではない。

 そう言えば制御屋さん電気屋さんの扱うものにはブラックボックスが多いようだ。その典型的なものはICである。ピンが何本か出ているだけで、中はどうなっているかさっぱりわからないようになっている。かりにICのパターンを顕微鏡で見たとしても解明はできないのである。おそらくこれを説明しようとすると、本が一冊はいるだろう。

 プリント基板などというのもまた大変で、一応回路は見えているが、その配線をたどって回路図を作ろうなどと思ったら大変である。中にカスタムICでも使っていようものなら、完全にお手上げとなる。

 〜中略~ 電子計算機のような大きなシステムになると、もう全体を知っている人というのは皆無と言ってよい。それを作っている会社の中の人でさえ、自分のタッチした狭い範囲のことしか知らない。だから、いったん故障が起こると大変である。どこに原因があるかを突き止めることができない。

 そこでどうするかというと、故障修理のマニュアルというのがあって、そこに書いてある手順どおりにチェックしていくと、どこの基板にトラブルがあるかがわかるようになっている。その基板の中のどこがどのように悪いのかまではわからなくてもよろしい。そうして、サービスマンはその基板を新しいものと差換えるのである。こういうのをエンジニアではなくてチェンジニアだと悪口を言っている。

 以上、「裏返しのメニュー」技術調査会発行 牧野洋 著 より抜粋

 IC、プリント基板、電子計算機以外にもブラックボックスは沢山あります。特にプロセス系の製品は材料の配合、温度、圧力、濃度などの製造条件が適切でなければ、思い通りの製品ができません。この場合は他社との差別化を図る、積極的なブラックボックスということができます。一方、ブラックボックスが難しい分野は、組立系(機械系)の製品です。どんなに複雑な機械であっても、分解することができれば、構造、機構などは簡単に解析できてしまいます。こういった場合は積極的に特許化することで、差別化を図ります。いずれにしても、差別化できる技術があっての話です。

 牧野先生はさらに次のように付け加えています。「機械の部品というのは電気の部品みたいに単純でなくて、機能だけで片付けるわけにはいかないのだ。同じ軸でも細けりゃ折れる。ここが機械のつらいところで、どのくらいの太さか(ブラックボックスの中を)見とかなきゃならない」

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